【主張】熱中症の早期発見・対処を
熱中症による死亡労働災害が増加傾向にあるなか、厚生労働省は、労働者を熱中症のおそれのある作業に従事させる事業者に対し、罰則付きで新たな防止対策を義務付ける考えだ(関連記事)。初期症状を見逃すことによる重篤化を防ぐため、労働安全衛生規則を改正し、早期発見のための報告体制整備や必要な措置の手順作成、関係労働者への周知を義務付ける。大切な労働者を失わないためにも、企業は必要な対策を確認しておきたい。
全国の死亡災害発生状況をみると、令和2~3年には20人前後だったものが、4年30人、5年31人と2年連続で30人以上を記録しており、6年度もそれを上回るペースで発生している。休業4日以上の死傷者数は、3年が561人だったのに対し、5年は倍近い1106人に達した。
厚労省が令和2~5年に発生した死亡災害103件を分析したところ、うち100件に重篤な状態で発見される「発見の遅れ」や、労働者の意識に異常があっても医療機関に搬送しないなど、「対応の不備」が確認されたという。
現行法令では熱中症への対策として、多量の発汗を伴う作業場における塩および飲料水の備え付けや、著しく暑熱な場所での業務などに常時従事する労働者に対する健康診断の実施などを求めている。一方、熱中症の初期症状への対応は定めておらず、熱中症対策基本要綱(令和3年7月26日基発0726第2号)や、例年実施するクールワークキャンペーンの実施要綱で、緊急連絡網の整備、労働者の体調に異常が生じた際の作業離脱・病院搬送などの実施を求めているのみだった。
ただ、それらの対応が徹底されず、死亡災害につながっている状況を踏まえると、法規制の強化は致し方ない。改正案では、WBGT値(暑さ指数)28度以上または気温31度以上の環境下で、連続1時間以上または1日4時間以上の実施が見込まれる作業について、報告体制整備などの対象とし、今年6月からの施行を予定している。熱中症による死亡災害は5月以前に発生することもあるため、施行を待たず対策を講じたい。