【助成金の解説】人材開発支援助成金(人材育成支援コース、事業展開等リスキング支援コース、人への投資促進コース(定額制訓練))/岡 佳伸
eラーニング・通信制訓練を対象とした人材開発支援助成金の活用方法
人材開発支援助成金は、企業が従業員の職業能力を向上させるために必要な訓練を実施する際の支援策の一つです。近年、デジタル化が進展する中で、eラーニングや通信制の訓練を活用した人材育成が広がっています。本稿では、特に 人材育成支援コース、事業展開等リスキング支援コース、人への投資促進コース(定額制訓練) に焦点を当て、助成対象要件や助成率、申請のポイントを解説します。
eラーニング・通信制訓練の定義
【eラーニングとは】
eラーニングは、オンラインで提供される学習コンテンツを活用し、受講者が場所を問わず学習できる訓練のことを指します。代表的な形式には、動画教材、オンラインテスト、インタラクティブな演習などが含まれます。
【通信制訓練とは】
通信制訓練は、郵送やオンライン教材を利用して、一定の期間内に学習を進める形式の訓練です。受講者は、教材に基づいて自習し、課題提出や指導を受けることで学習成果を確認します。
これらの訓練方法は、場所や時間の制約を受けにくく、特に地方企業や多忙な労働者にとって有効な手段となります。
人材開発支援助成金(人材育成支援コース)
【対象事業主】
・雇用保険適用事業主
・従業員に対して計画的に職業訓練を実施する事業主
・計画申請書の前日から起算して6か月前の日から支給申請書の提出日までの間に、当該計画を実施した事業所において、雇用する被保険者を事業主都合により離職させていないこと
等の要件があります。
【助成対象となる訓練】
・OFF-JT(Off-the-Job Training) であること
・訓練時間が10時間以上または標準学習期間が1か月以上であること
・事業主が労働者に賃金を支払いながら訓練を実施すること
等の要件があります。
【助成率(正規・非正規の違い)】
企業規模 | 労働者区分 | 経費助成(%) |
中小企業 | 正規 | 45% |
中小企業 | 非正規 | 60%→令和7年度は70%予定(正社員化した場合は70%→令和7年度は75%)予定 |
大企業 | 正規 | 30% |
大企業 | 非正規 | 60%→令和7年度は70%予定(正社員化した場合は70%→令和7年度は75%)予定 |
※ eラーニング・通信制訓練では賃金助成はありません。よって、支給申請時に賃金台帳、出勤簿、就業規則は原則添付不要です。
【申請期限】
・訓練計画の提出:訓練開始の1か月前まで
・支給申請:計画期間終了後又は訓練終了後2か月以内
人材開発支援助成金(事業展開等リスキング支援コース)
【対象事業主】
・事業展開やデジタルトランスフォーメーション(DX)等により、新たな分野で必要な知識・技能を習得させる事業主
・労働者に対して、一定のリスキリング訓練を実施する事業主
等の要件があります
【助成対象となる訓練】
・DX化やグリーン化、業態転換に関連する専門的な訓練
・事業展開に伴い、新しい業務に必要なスキルを習得するための訓練
・OFF-JTであること
・訓練時間が10時間以上または標準学習期間が1か月以上であること
等の要件があります。
【助成率・助成額】
企業規模 | 経費助成(%) |
中小企業 | 75% |
大企業 | 60% |
※ eラーニング・通信制訓練では賃金助成はありません。よって、支給申請時に賃金台帳、出勤簿、就業規則は原則添付不要です。
【申請期限】
・訓練計画の提出:訓練開始の1か月前まで
・支給申請:計画期間終了後又は訓練終了後2か月以内
人材開発支援助成金(人への投資促進コース:定額制訓練)
【定額制訓練の概要】
定額制訓練とは、企業が特定の学習プラットフォームやサービスを契約し、一定期間の間に複数の訓練を提供する仕組みを指します。従業員が自分のペースで訓練を受講できるため、柔軟な学習が可能です。
【助成対象となる条件】
・計画申請書の前日から起算して6か月前の日から支給申請書の提出日までの間に、当該計画を実施した事業所において、雇用する被保険者を事業主都合により離職させていないこと
・学習時間が10時間以上または標準学習期間が1か月以上であること
・企業が契約している定額制プラットフォーム内で、職務に関連する訓練を実施すること
・学習履歴や修了証明を取得できる仕組みが整備されていること
等の要件があります。
【申請期限】
・訓練計画の提出:訓練開始の1か月前まで
・支給申請:訓練終了後2か月以内
【助成率(正規・非正規の違い)】
企業規模 | 経費助成(%) |
中小企業 | 60% |
大企業 | 45% |
※定額制訓練制の内容が人材開発支援助成金(事業展開等リスキング支援コース)に当てはまる場合は事業展開等リスキング支援コースで計画申請を行うことも出来ます。その場合は事業展開等リスキング支援コースの助成率が適用されます。
※定額制訓練では賃金助成はありません。よって、支給申請時に賃金台帳、出勤簿、就業規則は原則添付不要です。
在宅勤務等テレワークでの受講に関する要件
eラーニングや通信制訓練を在宅勤務等のテレワーク環境で実施する場合、以下の条件を満たす必要があります。
・在宅勤務規定の整備:企業が在宅勤務制度を導入している場合、適用される規定が明確に定められていること。
・労働時間の管理:訓練時間が適切に管理され、勤務時間として認定されること。
・受講環境の確認:受講者が適切な学習環境を確保できることを事業主が確認すること。
・進捗管理の体制:LMS(学習管理システム)などを活用し、受講者の学習状況を把握できる仕組みが整備されていること。
助成金のお勧めポイント
人材開発支援助成金を活用することで、企業や従業員に以下のようなメリットがあります。
【企業にとってのメリット】
1.人材育成のコスト削減:助成金を活用することで、研修費や講師費用の負担を軽減できる。
2.従業員のスキル向上:社員の能力開発を促進し、企業の競争力向上につながる。
3.DX・グリーン化推進:事業展開等リスキング支援コースを活用し、最新技術に適応できる人材を育成できる。
4.従業員定着率の向上:教育支援の充実により、社員のモチベーション向上と離職防止につながる。
5.キャリアアアップ助成金正社員化コースを活用して非正規から正規社員に転換する際に加算措置(令和7年度は重点対象者)として取り扱われることがある。
【従業員にとってのメリット】
1.キャリアアップの機会:企業が研修を支援することで、新たなスキルを身につける機会が増える。
2.業務の幅が広がる:新しい知識や技術を学ぶことで、より多様な業務に対応できるようになる。
3.仕事の生産性向上:効果的な研修を受けることで、業務効率が向上し、成果が出しやすくなる。
人材開発支援助成金制度を最大限に活用し、企業の成長と従業員のキャリア形成を促進しましょう。
筆者:岡 佳伸(特定社会保険労務士 社会保険労務士法人岡佳伸事務所代表)
大手人材派遣会社などで人事労務を担当した後に、労働局職員(ハローワーク勤務・厚生労働事務官)としてキャリア支援や雇用保険給付業務に携わる。現在は開業社会保険労務士として活躍。
日経新聞、女性セブン等に取材記事掲載及びNHKあさイチ出演(2020年12月21日)、キャリアコンサルタント
【webサイトはこちら】
https://oka-sr.jp