【書方箋 この本、効キマス】第103回 『量子超越 量子コンピュータが世界を変える』 ミチオ・カク 著、斉藤 隆央 訳/三遊亭 楽麻呂

2025.03.13 【書評】
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未来は希望しかないか?

 今年は量子力学が誕生して100年目になる。マックス・プランクが黒体放射を考えた結果、「量子論」という新大陸を発見したのが1900年。以後、数多の物理学者が上陸し、新しい大地のあちこちで開拓を始めた。アインシュタインは少し新大陸に寄ったかと思うと、また古典物理学という旧大陸に戻ったりとかなり悩んだらしい。そして1925年、ハイゼンベルクが「量子力学」を生み出した。

 それから100年、人類は量子コンピュータを操れる一歩手前まで到達したようである。しかし「量子論」は素人にとって難解すぎる。私自身の脳は有名な「光は波であり粒子である」という言葉によってシャッターを下したまま動かなくなってしまった。

 でも安心してほしい。本書は小難しい数式の姿はほとんど見えない。夜中の高速道路のようにスイスイと快調に読み進むことができる。

 今や、ITをはじめ、金融、自動車などあらゆる企業が量子コンピュータに投資をしている。まるで量子コンピュータを制するものが世界を制するがごとくに。そのとおりなのだ。この波に乗り遅れたら敗者として市場を去ることになるかもしれず、皆必死だ。

 今までのデジタルコンピュータとどう違うのか? 原理が異なるのは当然として、計算能力が比較にならないほど向上する。天文学的になるといっても過言ではなく、まさに世界が変わってしまう。

 では量子コンピュータの御利益とは何だろうか? ふたつの例で見ていこう。まず人間の大きな悩みが病であるのは論を俟たないと思う。とくにガンは厄介だ。二人に一人は罹る。しかし量子コンピュータが完成した暁には、不治の病ではなくなるらしい。

 最初のアプローチは早期治療。肉眼では見えない芽のような時に発見し、確実に摘むことが可能になるようだ。次のアプローチは薬。まだ端緒に就いたばかりだが、遺伝子を解析することによってその人に効く薬を的確に見つける。いわば薬のオーダーメイドで、量子コンピュータができると格段に速く正確になる。これでガンは将来的に風邪程度の病気になり、命を落とすことは滅多になくなるという。さらに筆者は「不老不死」の可能性にまで言及している。黄泉の始皇帝が聞いたら、生まれた時代が早すぎたと地団駄踏むかもしれない。

 そして核融合発電だ。究極のエコ発電が実現化すれば、地球上の環境問題があらかた解決に向かうだろう。二酸化炭素を排出しないのでストップ地球温暖化に貢献できる。それだけでなく、食料の増産による食糧難の解消、人工知能とのコラボ、小惑星激突への備えなど、量子コンピュータは八面六臂の活躍をしそうだ。まるで魔法の杖を持ったハリーポッターのように人類の問題を次々と解決してしまう。未来には希望という言葉しかないように思えてくる。

 我われにはどんな将来が待っているのだろうか。最後は筆者が第1章で控えめに語った言葉で締めくくりたい。「シリコンバレーは次のラストベルトになるかもしれない」。

(ミチオ・カク 著、斉藤 隆央 訳、NHK出版 刊、税込2860円)

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落語家 三遊亭 楽麻呂 氏

選者:落語家 三遊亭 楽麻呂(さんゆうてい らくまろ)
82年に五代目三遊亭円楽に入門、91年に真打ち昇進。現在は五代目円楽一門会の事務局長を務める。

 濱口桂一郎さん、大矢博子さん、そして多彩なゲストが毎週、書籍を1冊紹介します。“学び直し”や“リフレッシュ”に是非…。

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令和7年3月17日第3489号7面 掲載
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