【主張】10月に賃上げはご勘弁を
「2020年代に最低賃金1500円」とする政府目標に対し、中小企業の5割は困難と答え、2割では対応不可能……。日本商工会議所と東京商工会議所が全国約4000社の回答をまとめた調査で、言わずもがなの結果が明らかになった。2年連続で賃上げが5%を超えるかどうかという状況にもかかわらず、政府目標を達成するためには今後、断続的に年7.3%程度の“ベースアップ”が求められる。困難どころか、不可能と訴えたくなるのも無理はない。
同調査では、すでに昨年秋の改定(全国加重平均で51円=5.1%増)への対応からして、深刻な状況が浮かび上がっている。最賃を下回る従業員がいたために賃金を引き上げた企業は、全体の44.3%を占めた。そのうちの2割強では、結果として半数以上の従業員の賃金を引き上げたと答えているし、正社員の賃金を引き上げたとする割合も3割近くに上る。今後もこうした対応に迫られるとしたら、春の賃上げにこだわる必然性はなくなってしまう。
3月14日に公表された連合の第1回回答集計では、規模300人未満の賃上げは1万4000円を超えた。改善分だけで軒並み1万5000円以上となったJC共闘大手の水準には及ばないものの、規模を問わず賃金引上げの機運は広がっている。とはいえ、昨年に続く大幅アップが、業績改善に裏打ちされたものでないのも明らかだ。昨年9月の価格転嫁推進月間に行われたフォローアップ調査では、中小企業等の価格転嫁率は未だ5割に満たなかった。
約116万人の短時間組合員を抱えるUAゼンセンは今春、昨年の最賃改定に伴う引上げ分は昨年の賃上げ分とみなすと断りつつ、時給80円増を要求基準として掲げた。3月13日時点の妥結状況は加重平均で75.7円となっているが、各単組の妥結結果について、厳密に最賃対応分の有無を区分してはいないという。
中小企業や労組のない企業の賃上げが夏にまでずれ込むのは“慣行”だとしても、よもや「最賃と同時に10月のみ」が当たり前となるのは、勘弁してもらいたい。