【助成金の解説】令和6年度から令和7年度への雇用関係助成金の変更点/岡 佳伸
令和7年度の雇用関係助成金に関する改正省令案が公表され、雇用保険法や労働施策の総合的な推進に関する法律に基づく助成金においてさまざまな変更が行われる予定です。本記事では、令和6年度の制度と比較しながら、主要な助成金の改正点について詳しく解説します。
1.早期再就職支援等助成金
令和6年度
事業規模の縮小等により離職を余儀なくされた労働者を雇い入れる事業主に対し、早期再就職を促すための助成が行われていました。また、雇入れ後のOJTやOFF-JTを含む教育訓練の実施に対しても追加の助成が提供されていました。
令和7年度の変更点
「雇入れ支援コース」における受入れ人材育成型訓練への助成が廃止されます。これは、利用実績が少なく、人材開発支援助成金の各種コースの利用が可能であることが背景にあります。
2.65歳超雇用推進助成金
令和6年度
65歳以上の雇用促進を目的として、企業が65歳以上の継続雇用や定年の引き上げを実施した場合に助成されていました。コースとして定年年齢の延長や廃止を目的とした「65歳超継続雇用促進コース」、高齢者向けの雇用管理制度や健康管理制度の導入を目的とした「高年齢者評価制度等雇用管理改善コース」、50歳以上の有期雇用労働者の無期雇用転換を促進する無期雇用転換コースがあります。
令和7年度の変更点
65歳超継続雇用促進コースにおいて、支給対象事業主の要件に含まれていた「高年齢者雇用安定法の遵守期間」の要件が削除され、申請手続きが簡素化されます。具体的には高齢者雇用安定法を6か月以上遵守していなければ、申請出来なかったものが、高齢者雇用安定法違反の就業規則(例えば、65歳迄の継続雇用が明記されていない就業規則)でも計画申請又は支給申請の時に同時に高齢者雇用安定法を順守する形に改正すれば支給申請出来ます。
3.特定求職者雇用開発助成金
令和6年度
特定求職者(生活保護受給者・高齢者・障害者など)を雇用する事業主に対し、雇用継続を促すための助成が行われていました。
令和7年度の変更点
・生活保護受給者等雇用開発コースの申請手続きの簡素化が図られました。
・就職氷河期世代安定雇用実現コース助成金が廃止されました。
・「中高年層安定雇用支援コース助成金(仮称)」の新設。(35歳以上60歳未満の不安定就労者を対象にした支援制度)支給金額は中小企業60万円(大企業50万円)になります。
4.トライアル雇用助成金
令和6年度
職業経験の不足などから就職が困難な求職者に対し、一定期間試行雇用を行うことで企業が受けられる助成金です。原則3か月のトライアル雇用期間を設けた求人をハローワーク等出して、採用する必要があります。
令和7年度の変更点
支給年齢の上限を60歳未満に見直しされました。
5.両立支援等助成金
令和6年度
育児・介護の両立を支援するための休業制度や短時間勤務制度を導入する企業に対する助成。令和6年12月の補正予算により出生時両立支援コースが第2種だけ申請可能に変更、育休中等業務代替支援コースが拡充されました。
令和7年度の変更点
・介護休業の助成要件が「合計5日以上」から「連続5日以上」に変更されました。
・助成金の支給タイミングを「休業取得時と職場復帰時の分割」から「職場復帰時の一括」に変更されました。
・「柔軟な働き方制度選択コース」の改正
令和7年10月の改正に併せて現行では柔軟な働き方選択制度等を2つ以上導入した場合に支給していたところ、育児・介護休業法改正法の施行に伴い、柔軟な働き方選択制度等を3つ以上導入した場合に支給することとされました。また、子の看護等休暇の有給休暇支援の独立した助成金が設けられました。
・「不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コース助成金」の新設
6.人材確保等支援助成金
令和6年度
雇用管理改善や労働環境の向上を目的にした助成金。令和6年度迄新規の計画申請が受付停止されていました。
令和7年度の変更点
・「雇用管理制度助成コース」が「雇用管理制度・雇用環境整備助成コース」に統合。
・従業員の作業負担軽減のための機器・設備等の導入が助成対象に追加。
・人事評価等改善コースが統合されました。
7.キャリアアップ助成金正社員化コース
令和6年度
非正規雇用労働者の正社員化を促進する助成金です。令和6年度の正社員化コースは全て申請時期が2期に分かれていました。令和6年度の内容は令和7年3月31日までまでの正社員転換に適用されます。
令和7年度の変更点
・支給対象者の適正化が図られ、通算雇用期間や特定条件を満たす者を重点支援対象者として位置付けれました。
・重点対象者以外は減額され1期のみ申請となりました。
・新卒者は一定の期間は対象外となりました。
・重点対象者の中の不安定雇用者は雇入れから3年未満の人で過去5年間正規雇用労働者であった期間が1年以下の人であってかつ過去1年間に正規雇用労働者として雇用されていない人となります。
8.キャリアアップ助成金賃金規定改定コース
令和7年度の変更点
・賃金引上げ率の区分が2段階から4段階になり6%以上の区分が出来たことで額の引き上げが図られました。
・新たに昇給制度を整備した事業主に対しての助成が新設されました。
9.人材開発支援助成金
令和6年度
企業が従業員のスキルアップや職業訓練を実施した際に助成される制度です。
令和7年度の変更点
・人材育成支援コース、人への投資促進コース、事業展開等リスキリング支援コースの賃金助成額が引き上げられました。
・人材育成支援コースの見直の有期雇用労働者に対しての見直しが行われました。具体的には正規雇用労働者等への転換等を実施した場合の高率助成を廃止されましたが、有期契約労働者等に対する訓練機会の確保を図る観点から、有期契約労働者等に訓練を実施した場合の経費助成率(訓練終了後に賃上げした場合の経費助成率を含む)が70%(賃上げをした場合は85%)に引上げられました。
・有期実習型訓練について、正規雇用労働者等への転換等を一層促進する観点から、助成メニューを正規雇用労働者等に転換等した場合に限定した上で、経費助成率が75%(賃上げをした場合は100%)に引き上げられました。
まとめ
令和7年度の助成金改正では、既存助成金の見直しや新たな助成制度の導入により、企業の雇用支援がより効果的に行われることが期待されます。助成金の活用を検討している事業主は、最新の要件を確認し、適切な申請を行うことが重要です。
筆者:岡 佳伸(特定社会保険労務士 社会保険労務士法人岡佳伸事務所代表)
大手人材派遣会社などで人事労務を担当した後に、労働局職員(ハローワーク勤務・厚生労働事務官)としてキャリア支援や雇用保険給付業務に携わる。現在は開業社会保険労務士として活躍。
日経新聞、女性セブン等に取材記事掲載及びNHKあさイチ出演(2020年12月21日)、キャリアコンサルタント
【webサイトはこちら】
https://oka-sr.jp