背景を探ることが大事/蘇武社会保険労務士事務所 所長 蘇武 則之
5月下旬に明治大学で学部間共通総合講座の授業を担当した。明治大学はわが母校で、同大学出身の社労士で構成される「駿台会」のメンバーが毎年4月から7月にかけて、7コマから8コマの授業を受け持っている。ありがたいことに私は3年連続で学生相手に熱弁する機会を得た。対象となる学生は3~4年生で60人が受講した。今年は「ホワイト企業とブラック企業の見定め方、解雇権の濫用という問題をめぐって」というタイトルで60分ほど講義をし、その後レポート(感想文)を提出してもらった。さすがに旬な話題のためか学生は皆真剣なまなざしで講義を聞いていた。
私は講義の対象者が学生であろうと、社会人であろうと、途中でこちらから受講生に質問することにしている。一方通行の講義はおもしろくないと思っているからである。
これだけ情報があり余るご時世で、意外にも学生たちは就職活動における情報の絶対量が不足しているように思えた。例えば、「昨年の大卒初任給の平均額が分かる人はいますか」「就職活動をするに当たり、どのぐらい会社を訪問したら内定をもらえるでしょうか」、これぐらいは答えられる学生がいても良さそうだが、残念ながら誰一人としていなかった。そこで意地悪な質問をしてみた。昨年の大卒初任給は、男女平均で約20万円ぐらいなのだが、「A社が月給30万円で来年度卒業見込みの学生を募集しています。学生諸君はその会社に就職を希望しますか」と質問したところ、ほとんどの学生が就職したいと述べた。ただ、一人の学生だけが、「なぜその初任給で募集しているのかを聞いてみたい」と答えた。まさに私が求めていた回答はこれで、他の学生もこの回答には再考を促されていた。
我われ社労士は、様ざまな法律に携わっているわけだが、「この件は○○法第○条に違反することになります」などと顧問先などにアドバイスしがちだと思う。最終的な結論は法律に頼らざるを得ないことは間違いないが、まず常識で考えてどうなのか、その原因は何か、どちらに問題があったのか、社会通念上どうなのかという見地で考えるようにしている。特に開業したての社労士の方には参考にしていただきたい。
蘇武社会保険労務士事務所(株式会社 ベストアビリティ)代表 蘇武 則之【東京】
【公式webサイトはこちら】
http://www.best-ability.com/