サムライとして稽古に励む/高知労務管理事務所 副所長 大﨑 悠司
私が所属している事務所は、昭和37年に祖父が創立したものである。経営は伯父夫妻に代わったが、関与先のほとんどが零細企業という創立時の姿は変わっていない。手続代行業の色濃い当事務所も、近年、労使紛争(あっせん、合同労組との団交)を経験した。
法例実務研究会(月1回開催の自主研修会)の有志で購入した「労働法全書」、コンメンタールなどの実務図書200冊を、高知県社労士会事務局に置かせてもらっているが、登録7年になんなんとするイナカザムライは、蔵書を目にするたびに稽古(知識の仕入れ)不足を恥じる。
司法参入への反対論には、一時の乱心から刃傷に及びたくなるが、書物をひもとけば、「へ~」や「そうだったのか」と気付かされることが多く、次のような自問と自省の繰り返しだ。
曖昧な知識や感覚的な思い込み、手続きの概念で事象を判断していないか?パンフレットに頼らず条文や通達を読み込んでいるか?「合意」、「請負」など日ごろ多用する法律用語を理解しているか?就業規則の用字用語、措辞、言い回しへの配慮はどうか?労使が権利義務関係という意識は?公法と私法(適法・違法と有効・無効)の区別は?
また、文章を書く稽古も必要である。解雇予告除外認定申請の申立書とあっせん答弁書を作成した際には、感情論を排した法的三段論法による筋の通った文章が書けずに七転八倒、文章力のなさを痛感した。
司法制度改革審議会で、社労士は隣接法律専門職種とされている。私は、常に社労士としての矜持を胸に秘め、善管注意義務を意識し、士(サムライ)の名に恥じぬよう、「あれでも国家資格者か」などと言われぬよう、アンテナを高く張って、月月火水木金金、稽古に励み、リーガルマインドを備えた敷居が低い「町の法律家」であり続けたい。これは、社労士たる私の意気地である。市井の人にとっては、労使間の法的問題や労働社会保険制度は難解である。社労士には通訳の役目もあろう。
「百年兵を養うは一日之を用いんがためなり」。「彼を知り己を知れば百戦して殆からず」。
よしんば、怠け心から稽古をしなくなれば、それは士を辞するときである。