信頼関係構築が最善策/小林社会保険労務士事務所 代表 小林 信宏
「税務調査は受けたことはあるが、労働基準監督署の調査なんて、うちみたいな小さな規模の会社ではないだろ?」と考える経営者は多いと思うが、労基署にとっては企業の大小はなく、税務調査と同様、小規模企業だからといってそれが考慮されることもない。ある意味公平である。
労基署の調査のうち、近年増えているのが「申告監督」。従業員が労基署に相談後、その聞取り内容を確認するため、労働基準監督官が事業場を訪れ、出勤簿、タイムカード、賃金台帳、就業規則等の提出を要求して調査が始まるケースである。対象は従業員全てで、基本的にこれらの提出を拒否することはできない。
まず、どこをチェックするかといえば、現場で対応した感じから、①労働時間②支払賃金③36協定等の届出④労働条件の明示がポイントだったと思う。その後、法違反があれば、後日(当日の場合も)文書にて「是正勧告」「指導票」「使用停止命令」といった指導があり、期日までに是正・改善を報告するように求められる。未払賃金の支払いなどは、この是正の時点で行われる。基本的には過去の事実を変えることはできないので、支払いが確定し、合計で1000万円を超えたケースもあった。
調査の相談を受ける立場からいえば、①タイムカードなどで時間管理していない②残業代などの手当の項目がなく、基本給のみ③就業規則も労働契約書も書面にしていない――場合は、厳しい結果を経営者に告げなくてはならない。
私が調査対応で行うのは、勤務の実態を把握して労働時間を算出することと、記載された賃金規定や労働条件から未払賃金を計算し、企業経営が継続できるよう支払い完了に導くこと。時には監督官と意見を戦わせるが、それは経営者の代弁者でありたいと思うからこそである。
企業が日頃から労働法規を順守できれば最上だが、労働法規を守るだけでは成長も安定も望めない。
経営者の方にお願いしたいのは、労働分野でのリスクを認識し、就業規則や労働契約書、タイムカードは会社を縛るだけのものではなく、いざという時の命綱として捉え、整備することである。なにより従業員との信頼関係向上こそが最善の労務対策ではないだろうか。
社会保険労務士法人和道経営舎 代表 小林 信宏【神奈川】
【公式webサイトはこちら】
http://www.srkobayashi.com/
※タイトルの社名は連載時のものです。