定額残業代の意義を再考/社会保険労務士法人IMI 代表社員 万田 耕司
昨今、定額残業代制度に関する厳しい判例が相次いでおり、同制度が風前の灯だ。そもそも同制度の有効性については、昭和63年7月14日小里機材事件上告審判決で「仮に、月15時間の時間外労働に対する割増賃金を基本給に含める旨の合意がされたとしても、その基本給の内割増賃金に当たる部分が明確に区分されて合意がされ、かつ労基法所定の計算方法による額がその額を上回るときはその差額を当該賃金の支払期に支払うことが合意されている場合にのみ、その予定割増賃金分を当該月の割増賃金の一部または全部とすることができるものと解すべき」であるとする内容を最高裁が否定しなかったことに端を発する。
ただ、昨今立て続けに判例が出ている部分を紐解くと、制度自体の有効性というよりそもそも定額残業代の取扱いを認めないと解さざるを得ないような内容が多いことに疑問を抱く。
我われの関与先は圧倒的に中小企業が多く、労基法37条に定める計算方法で算出した割増賃金以上に、特定の手当等を定額残業代として支給している事業所が少なからず存在する。
自社単独では生産計画が立てられず取引先から指示されるままに納期を決定されることから時間外労働が常態化しており、毎月の時間外労働の時間数が概ね一定している場合には、毎月の割増賃金を計算する必要がなくなるので、総支給額が多少増えようとも同制度がある意味有意義な方法ともいえるわけだ。
我われが提案すべきなのは、作業手順の効率化や時間外労働の短縮などであり、時間外割増賃金の計算を定額残業代制度から正規の手法に切り替えてもらうことが最優先ではない。
適正に労働時間を把握することは当然の責務として、その労働時間に基づいた正しい賃金を計算し得る管理体制がその事業所に備わっているのであれば、同制度は本来の計算方法より高い賃金を支払うことになるわけで、制度そのものを導入するメリットはそもそもない。
問題は、同制度を正しく理解せず、悪用する一部の企業によってこの制度自体が否定されるに足る判例が積み上がっていくことだ。生活給を平準化させるために労使双方にとって定額残業代が有効な手段の一つであることを今一度考えてもらいたい。
社会保険労務士法人IMI 代表社員 万田 耕司【大阪】
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