【主張】年休早期取得制は慎重に
様ざまな働き方改革が同時進行するなか、新たに年次有給休暇の早期取得制度が重要課題として浮上してきた(本紙9月4日号1面既報)。
仕事を休まざるを得なくなる事情がいつ発生するか分からないため、入社直後でも一定の年休を付与する制度を導入すべきという主張である。しかし、年休制度の意義は、労働者の心身の疲労を回復させ、維持培養を図るためというのが基本とされており、入社直後から付与するには無理がある。強制力のない「指針」に留めるなら良いが、今後さらにレベルアップを図るなら、労使を交えた本格的な議論を前提とすべきである。
本紙によると、厚労省は10月1日(予定)に労働時間等設定改善法に基づく「指針」を改正し、年休の早期取得制度の導入を勧奨していくという。転職が不利にならない仕組みづくりの一環と位置付け、突然のケガや病気、子どもの世話などに利用できるようにするという。
労働基準法では、入社から6カ月経過し、全労働日の8割以上出勤した場合に10日の年休を付与しなければならないが、その間付与しなくても当然違法ではない。今回は、労基法改正ではなく、「指針」の改正であり企業への要請ベースに留まるもので受け入れられるとしても、これ以上は慎重な対応が必要である。
労基法コンメンタールによると、年休制度は労働者が仕事による心身の疲労を回復するためにあるなどと規定している。古くは「慰労休暇」としてスタートし、戦後になって「年休」として一般労働者に認められた。「慰労」とは、成果や業績、苦労などをねぎらう意味である。
たしかに、入社6カ月後に初めて年休が発生するのでは転職で不利となる。ケガや病気は勤続に関係なく発生すると考えて良い。ゆとりある生活の実現に向けた年休の早期取得制度導入は発想として理解できる。欧州先進諸国でもすでに実施している。
ただし、企業にとっては大きな負担になる可能性があり、将来的にあり方を見直そうと考えているなら、原則論に立ち返って議論し直す必要があろう。