【主張】監督官の継続的増員望む
厚生労働省が過重労働や過労死防止対策にいよいよ本腰を入れてきた。本紙3月7日号1面によると、平成28年度に例年を上回る数の労働基準監督官を増員するという。昨年施行した過労死防止対策推進法を実効性あるものにするとともに、今通常国会に提出している労働基準法改正案への懸念を少しでも振り払いたい思いがあろう。
過重労働防止対策は、従来から労働行政上の重要課題とされているが、必ずしも監督官の増員を伴っていなかった。監督指導の最前線に立つ監督官の増員に着手したことで、今後より効果的な対応が可能となるはずだ。企業としては、司法処分を含めた厳しい是正指導が待ち構えていることを十分認識し、働き過ぎ防止に努める必要がある。
しかし、監督行政の現場をみると、1人の監督官が背負う役割が過大であることに変わりはない。全国の労働基準監督署が実施する年間(平成26年)の監督数は、定期監督で13万事業場、このうち約9万事業場に何らかの法令違反があり、再監督数は約1万4000事業場に達する。
申告処理にも監督官が活躍する。労働基準法第104条では、労働者は法令違反の事実を監督官などに申告できると規定し、実際に違反の疑いがあれば調査を開始する。要処理の申告件数は年間約3万1000件で、これに基づく監督数は約2万2000事業場である。
合計すると、毎年17万前後の事業場を監督することになり、これを約3200人の監督官が背負っている。この状況は、最も負担の大きい司法処理に大きく影響する。司法処理件数は毎年約1000件に留まっており、監督官3人に1件に満たない。伝家の宝刀である刑事処分が低調だと、結果として事業場に与えるインパクトは限られる。
将来的には監督官1人1件の司法処理をめざし、監督官および職員の増員や業務の効率化を図る必要がある。雇用制度改革やブラック企業撲滅などと声高に叫ぶなら、監督官の絶対数にもっと関心を向けるべきである。今後も計画的、継続的な増員に努めてもらいたい。