【主張】どうする企業共同体意識
共同体意識を払拭して収益率の向上をめざせ――日本企業が極めて困難な選択に迫られていることが、経済同友会(小林喜光代表幹事)がさきごろ公表した提言「収益力を強化する事業組み換えの実践」で明確になった。
熾烈なグローバル競争の渦中にあって、アメリカ企業などと比べ生産性に後れを取る 日本企業は、その足枷となっている日本的雇用慣行を払拭すべきだろうか――。グローバル標準とはいえない雇用慣行をこのまま維持していくか、それとも収益性や生産性向上のために終止符を打つべきか、選択の時代に突入したといえそうだ。日本企業は、戦後の高度経済成長のなかで、独自の雇用慣行を形成してきた。いわゆる終身雇用、年功制、企業別組合の「三種の神器」と呼ばれたものである。国民全体の生活水準を押し上げて、分厚い中流層を形作り、そして日本を経済大国に押し上げてきた基盤だった。日本的雇用慣行の深化とともに成立したのが紛れもない企業共同体意識である。
しかし、経済同友会は、この共同体意識こそが今後の日本企業発展の足枷になり得ると警鐘を鳴らしたのだ。「従業員を路頭に迷わすことは経営者としてすべきではなく、雇用を続けることが美徳」とする考え方を「経営者の心の内なる岩盤」と指摘し、この岩盤を突き崩すことが必要と訴えた。共同体の維持を第一に重視する企業観が、生産性を妨げ、ステークホルダーに不利益をもたらすという。
その結果、多くの日本企業は、事業ポートフォリオ組換えの不完全性、グローバル人材の不足、横並び主義による投資・開発、研究開発・新規事業立ち上げの自前主義、不十分な労働移動に陥り、収益性が妨げられている。
バブル経済崩壊と同時に、日本的雇用慣行の崩壊が話題となったが、実際には現時点においても依然強固に残存していることは疑いがない。国民の将来不安が高まるなか、企業共同体意識が社会全体に一定の安心感をもたらしているのも一面だ。収益性とのバランスを考慮しながら改革に臨むほかはない。