【見逃していませんか?この本】日常を壮大な冒険に変えるヒント/ジョーゼフ・キャンベル『千の顔をもつ英雄〈上・下〉』〔新訳〕

2016.02.04 【書評】
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超人気SF映画の新シリーズの第一作『スターウォーズ フォースの覚醒』が世界中で空前の大ヒットを記録している。

往年のファンから70年代の熱狂を知らない新しいファンまで……全世代の心を鷲づかみにしている。

もし、この作品がたった一冊の研究論文から生まれたと言ったら、興奮冷めやらぬ観客たちはどう思うだろうか。

そう、驚くべきことにシリーズの生みの親、ジョージ・ルーカスは、小説などからではなく物語構造に関する研究の古典的名著とされる本書からインスピレーションを得たのである。

例えば、「第一部英雄の旅」のチャプターを見てみよう。

冒険への召命→召命拒否→自然を超越した力の助け→最初の境界を超える→クジラの腹の中等々と、エキサイティングな冒険譚の基本パターンを世界各地の神話・民話から掘り起こしていくのだ。

ちなみに、「クジラの腹の中」とは、「未知のものに呑み込まれ」「生が新しくなる行為」を指している。キャンベルは、エスキモーやズールー族の昔話、あるいはギリシア神話などの例を挙げながら、怪物の腹に呑み込まれるが、腹を裂いて出てくるという構造に「世界の境界の向こう」を行き来する力を見い出す(同書、上巻)。

本書は、単なる物語研究に止まらない奥行きを持っている。

人の営みは必ず「物語る」ことから逃れられないという事実と向かい合って論じているからだ。

キャンベルは、最後に現代の英雄について語る。

現代の共同体は「いわゆる地球共同体」であると述べ、このグループを分裂させる諸々の要因は「英雄が最初に克服しなければならない問題」だと主張している(同書、下巻)。

これは、時代を超越するきわめて今日的な呼びかけであり、ともすれば無関心になりがちな日常を壮大な冒険に変えるヒントでもある。

神話が現在と地続きであることを徹底的に討論し、若者の未来について展望した、ジャーナリストのビル・モイヤーズとの対談による『神話の力』(早川書房)も併せて読みたい。(N)

 

倉田真木・斎藤静代・関根光宏訳、早川書房・上下各799円/Joseph Campbell アメリカの神話学者。『神話の力』『生きるよすがとしての神話』など。

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