【主張】賃金引上げは社会的責任
経団連の経済政策部会が先ごろ明らかにした報告書「個人消費低迷の分析と今後の対応」で、デフレ脱却を妨げる様ざまな障害が横たわっている実態が明確となった。
致命的なのは、過去15年程度の賃金水準のあり方である。働き盛りの年齢層において、就職氷河期世代はバブル世代に比較して、10年間の累積年収が約600万円も低いという。やはり、非正規労働者が約4割に達したことが重荷となっている。デフレ脱却には、非正規労働者の正社員転換か、思い切った処遇改善が最低条件であることは間違いない。
バブル崩壊後、外資ファンドに飲み込まれるのを恐れた日本企業は、不良債権処理を急ぐため、賃金制度に成果主義を導入するとともに、非正規労働者の拡大によってコスト削減に突き進んだ。当時の経済状況では、非正規労働者の拡大は理解できるが、産業界が史上最高益を出している現状においては到底納得がいかない。若者の将来と日本の未来のために、非正規労働者の正社員転換に最大限の力を入れてもらいたい。
同報告書では、デフレ脱却が容易でない要因の一つに1人当たり雇用者報酬の伸び悩みを挙げている。景気回復によって求人倍率が上がり、雇用者数が増えたが、1人当たり雇用者報酬の増額にはつながっていない。増えたのは、相対的に賃金水準が低く、上昇テンポも鈍い飲食サービス、医療・福祉、生活関連サービスなどの分野だ。
月間現金給与総額を比較すると、全産業計の31万円強に対して、飲食サービスが12万円強、医療・福祉が29万円強、生活関連サービスが20万円に留まる。全体のパイが増えたとしても、一人ひとりの消費行動に結び付かないジレンマがある。解決策としては、世帯ベースの生涯所得を底上げ、活力ある中間層を取り戻す必要があるという。
来年4月からは改正労働契約法で定められた無期転換ルールの本格的適用が開始される。デフレ脱却には、非正規労働者の賃金水準アップはもはや待ったなしであり、企業の社会的責任と捉えるべきである。