【ひのみやぐら】原点を見つめ直す
住友金属工業(現・新日鐵住金)で生まれたKYT。その発祥企業出身である災害予防研究所の中村昌弘所長は「格好よく行われているものの、形式に陥っている」と懸念している。本気になってゼロ災害を継続するには、それぞれの安全活動が、どのような苦悩や問題意識から生まれたのかを知っておく必要があるとも指摘する。前号、今号と2回にわたって掲載する特集Ⅱでは、各種KY活動のルーツを知るとともに「なぜ、安全衛生活動に取り組むのか」という根本的な問いも投げかけている。
中村所長がかつて同社で現場管理を担当していたころ、幼稚園児だった娘が転んで、膝にかすかに血がにじんだ。その血を見たとき、心臓に針が刺されたような痛みを覚えたという。ケガをすれば、辛い思いをする家族がいる――このとき感じた心の痛みが原点と悟ったそうだ。
「自分は独身だし家族もいないから関係ない」ということはない。食堂やコンビニに行けば、声をかける店員や顔なじみの人もいるだろう。何より、職場にはともに働く仲間がいる。人は人とのかかわりのなかでしか生きられず、絶対的な孤独というものはありえない。人は誰でも〝かけがえのない人〟なのだ。その大切な人の「命」を守るのがKYTだが、形ばかりになっているのではないかと心配している。
特集Ⅱでは、中村所長が考案し中災防により普及していった「健康KY」「適切作業指示」「問いかけKY」について、開発の動機や狙いを示した。悲しい死亡災害を教訓に苦悩の中から生まれた手法の開発経緯を知ることで、心のこもった活動が取り戻せるのではないだろうか。なぜ、安全衛生活動は行われるのかという、その原点をしっかりと見つめ直したい。