【ひのみやぐら】労災かくしは〝裏切り〟
労災かくしが犯罪といわれるのはなぜか。端的にいえば、労働基準監督署を裏切る行為だからだ。
労基署の行動の基本となるものに年間計画がある。厚生労働省の地方労働行政運営方針と労基署管内の課題を踏まえながら、計画は立てられる。労基署ごとの問題を捉える重要なデータの一つが、労働者死傷病報告だ。
貴重な情報源である労働者死傷病報告は、企業を信用しているからこそ、行政運営に反映できるものとなる。
仮に、労働者死傷病報告が未報告であったり、虚偽の内容が記載された報告書が頻繁に提出されていたらどうであろう。管内のどこに問題があるのか分からないだけではなく、下手をすると誤った方向の計画を立てることになる。労働災害防止に大きな支障を来すのはもちろん、ひいては、管内の安全文化が大きく後退する事態になりかねない。
労基署は、事業場と互いに協力しあい、労働災害防止に努めている。その根幹にあるのが、お互いの信頼関係だ。それを「嘘をつく」「隠す」ということで対応するのは、悪質というほかなく、裏切りともいえる行為。決して許されるものではなく、書類送検をする場合についても、捜査に力が入ってしまうゆえんだ。
今号の別冊付録は「労災かくしは〝重大な〟犯罪です!」と題し、元労働基準監督署長の片寄茂夫さんに、立件するケースや経験を元にした事例を執筆していただいた。「労使双方から中立の位置に立ち、しかも双方から一定の信頼を得ていないと仕事そのものが成り立たない」と本文中にあるように、労働基準監督官の業務は、信頼がベースになっている。
信頼関係を崩す代表的な行為が労災かくし。絶対にしてはならない。