【主張】意義ある監督支援の委託
本紙報道(11月20日号1面)によると、厚生労働省は、労働基準監督署の監督指導に対する支援業務の一部を社会保険労務士団体などの民間事業者に委託する方針を打ち出した。規制改革推進会議(大田弘子議長)の民間活用タスクフォースが今年5月にまとめた提言内容を、ほぼそのまま実行するもので、早い対応を称賛したい。大企業を含め労働法令違反が横行しているのが現状であり、取締まり強化は一刻も猶予できない。
法令違反が横行するなか、司法警察員として大ナタを振るえる監督官の絶対数が不足しているのは明らかである。厳しい定員合理化によって一気に増員することは困難で、未だ3千数百人規模に留まっている。その結果、総事業場数に対する定期監督実施率はわずか3%である。一方で、総違反率は毎年70%弱で推移しているのが実態だ。
先進諸国との比較をみても雇用者1万人当たりの監督官数は、ドイツで1.89人、イギリスで0.93人だが、日本では0.63人となっている。ILOが要求する水準は雇用者1万人当たり1人だ。
監督官の要員不足を少しでも補おうと同タスクフォースが提唱したのが、民間活用だった。労務問題に精通した民間事業者を選定し、36協定未締結事業場を中心とした相談支援業務に当たるという。監督官は、民間事業者の要請に応じなかったり、見逃せない問題が表面化した場合に改めて監督指導に乗り出す。法令上何ら位置付けのない民間事業者による指導として、任意調査の範囲内に限定されるのは致し方なく、今のところこれが精一杯であろう。
しかし、従来まで監督官が携わっていた任意の事業場調査などを民間事業者に託せるのは、実は大きな変更だ。何人もの監督官を増員したのと同じことと考えられないだろうか。監督官に代わって、法令違反是正に向けた突破口を開いてくれれば、監督指導の拡大、強化に貢献するのは間違いない。併せて監督官OBの再任用も注目に値する。
今後は、監督官と民間事業者が適切な役割分担の下でチームを結成し監督指導できるよう制度を整えてほしい。