【道しるべ】メンタルシック トップの決断で抑止できる

2013.02.15 【ひのみやぐら】
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 ものごとを見ぬく洞察力があり、傾聴テクニックと人間心理に関する知識あるいはメンタル不調についての医学的基礎知識を持ち、人と対したときには話しやすい感じを与え、面倒見もいい。職場改善への対応実務に通じていて、労働関係の法律にも明るい――。これをメンタルヘルス担当者の人選要件に挙げているのは、オリンパスソフトウェアテクノロジー社の前社長だった天野常彦さん。職場のメンタルヘルスを推進していくうえで必要なスキルであるともしている(本誌1月15日号・リレーコラム「産業カウンセリングの現場から」より)。

 ご存知の方も多いと思うが、天野さんには『メンタルサポートが会社を変えた!―オリンパスソフトの奇跡』(創元社)という著書がある。書名からもお分かりのように、同書にはIT企業における労働実態(メンタルシック=心の病の多発)を改善すべく手がけた諸施策の内容と成果、実体験に基づく考察が詳しく書きまとめられている。メンタルヘルスを主題とした経営トップの実践録として、あまり例を見ない一冊である。

 現在は独立して広範な企業を対象としたコンサルティングを開始した天野さんに、このほどメンタルシック抑止を重視するに至った経緯などについてインタビューした。そこで意外と感じられたのは「以前の日本にあった家族主義的な経営・マネジメントを見直す必要性」云々だった。

 「労使(働く者と働かせる者)のギクシャクした垣根を取り払い、誰のための会社かを考えながら皆でストレスの少ない働きやすく働きがいのある環境をつくり、個々の生産性を上げながら会社の利益向上を図る」、「技術面・精神面で強い者だけが残るという発想を排し、日本の家族主義的経営の良さとアメリカ的な合理性をミックスした新しい会社をつくる」といった経営思想をベースにする一方、技術者の離・退職多発が及ぼす損失なども綿密に実証しながら打ち出していった施策は130にも上り、職場離脱者を大幅に減らした。冒頭に記したメンタルヘルス担当者の要件は改革に着手した際に設定したもので、不調に陥った社員への細心の配慮とコミュニケーション重視の姿勢が伝わってくる。

 「取組みはゼロからのスタート」だった天野さんであるからして、策を講じる際には医師などの専門家にアドバイスを求め、実践は試行錯誤の連続だったようだが、「弱者排除の経営はおかしい」という想いの強さが初一念を貫かせた。正に、トップの決断が職場を変えたのだ。

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平成25年2月15日第2180号 掲載
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