【道しるべ】 労働衛生施策 措置の案出と監督強化に注目
本誌前号のニュース欄では、労働衛生分野における行政新施策の検討・展開が報じられている。
トップ記事は、石綿漏えい・飛散防止措置の充実。建築物解体工事での発覚が相次ぎ、労働者ばく露の懸念が強まっていることから除去作業時の監視と測定を充実させる方向での検討が厚生労働省の専門家会議によって開始された、とある。これは石綿の漏えいと飛散が、危険有害性に対する認識不足から養生不備などで隔離空間外へ及ぶケースが多い実情を踏まえてのことのようだ。
たとえば「ホテル解体工事おいて、4階以上の鉄骨梁に石綿が吹き付けられていたが、隔離養生をしないまま解体を行い、上層階から解体材を投下したため石綿が建物内に広範囲に発散」といった例である(中央労働災害防止協会「労働衛生のしおり」より)。今後、老朽化したインフラや建造物の解体・改修の増加とともに同種事例の多発が危惧されるため、専門家会議では防止措置として測定機器を使っての石綿濃度の常時監視、特定のタイミングでの測定実施について議論を重ね、結論いかんによっては石綿障害予防規則の改正も課題に上るとみられている。
石綿問題につづく記事は、労働衛生関係への監督指導の強化である。とくに昨年来、印刷事業場において高い頻度での胆管がん発生が判明していることから、厚労省では有機溶剤をはじめとする化学物質の管理と作業環境状況を厳しくチェックし、とくに発がん性に重点を置いた健康障害防止対策の徹底を図るとしている。
次は、「過労死事業場、9割で法違反」という見出しでの監督指導結果。東京労働局が過労死・過労自殺に関して労災請求のあった98事業場を対象に監督指導を実施したところ、84事業場に法令違反(長時間労働、健康管理体制の不備など)があった。死に至る過重労働に、依然として解消の兆しなしと感じさせる内容といっていいか。
また、長時間労働が常態化しての作業関連疾患(脳心臓疾患、精神障害など)には、職業生活にストップをかけて断念させる現実がある。労働政策研究・研修機構が行った調査では、病気休職者の4割超が退職を余儀なくされている実態が明らかになった(7月15日号ニュース)。ここでは復職も視野にいれた「治療と仕事の両立」への対応促進が必要とされ、厚労省も近くガイドラインを策定の予定だという。
そのほか労働衛生分野には懸案の事項が多々あるが、それに対する新たな措置の案出と強制力をもっての指導に注目していきたい。