【主張】実務上重要な時効の延長
厚生労働省は、改正民法に対応して労働基準法を中心とする消滅時効のあり方について検討をスタートさせたという(本紙1月22日号1面既報)。民法上の短期消滅時効が基本的に廃止されたことから、労基法に規定している賃金請求権や年次有給休暇請求権の消滅時効期間が長期化する可能性が高まっている。
簡単にいえば、救済幅が拡大し労働者保護が強化される方向といえよう。派手な働き方改革の影で実務上重大な見直しが進行しつつあることに注意を喚起したい。
短期消滅時効を規定する労基法第115条では、退職金を除く賃金や災害補償請求権を2年間、退職金請求権を5年間としている。同条の対象となっているのは、このほか割増賃金請求権、解雇予告手当請求権、年休請求権などがあり、ともに2年間の短期消滅時効となっている。
改正民法によると、こうした事項別の短期消滅時効が合理性に乏しいことに加え、時効期間を統一して簡素化を図る観点から、①債権者が権利を行使できることを知った時から5年間、または②権利を行使できる時から10年間行使しないときは時効消滅する規定に統一した。
厚労省は、改正民法が施行される平成32年4月1日までに労基法上の短期消滅時効を見直す方針である。このほど専門家による検討機関を設け議論をスタートさせた。
代表的な例でいえば、労基法第37条の割増賃金請求権の短期消滅時効は現行2年間だが、改正民法に従えばこれが長期化する可能性が高い。本紙に連載記事「民法改正と人事労務」(6面)を寄稿している片山雅也弁護士によれば、「5年に改正されるか、使用者側の負担を考慮して5年より短い期間が設定されるか」とする観測を述べている。もちろん厚労省の検討報告がどのような結論を出すか現時点で確定的なことはいえないが、労働者保護の強化に傾く方向は避けられないだろう。
監督指導結果では、28年度の不払い残業代は127億円(9万8000人分)に達している。2年を上回る請求が認められれば、企業経営へダメージとなりかねない。