【ひのみやぐら】酸欠災害防止は教育が大切
致死率が高く非常に危険な酸素欠乏症。厚生労働省や災害防止団体では、安全確保の呼び掛けを行っているところだが、依然として悲惨な事故が後を絶たない。被災者の救助に向かった労働者が安易に危険な場所に入ってしまうことで、二次災害となるケースも決して珍しくはない話だ。
元労働基準監督署長で町田安全衛生リサーチ代表の村木宏吉さんは、労働基準監督官時代に何度も酸欠による死亡災害現場を調査しており、その経験から最も大切なのは「予防」という結論に達した。具体的な予防策とは、まず、酸素欠乏危険場所と危険作業を知ってもらうことだという。危険場所を熟知するには、教育が欠かせない。酸素欠乏危険作業に従事する労働者に、特別教育が義務付けられているのはそのためだ。危険場所を知っていれば近付くことはないし、濃度測定をしないで内部に入っていくこともないはず、と村木さんは指摘する。
また、土木、建築工事現場はもちろん、醤油、酒、ヨーグルトなどの発酵槽や、下水、汚水処理場の浄化槽内、マンホール内など酸欠が起こり得る場所は身近に存在する。こうしたことから、特別教育の対象者に限らず、労働者全員に知っておいてもらう必要があるという。
予防が重要になるのは、被災者の救助が簡単ではないというのが理由のひとつだ。同僚といえども、「助けなければ」という気持ちだけで、危険な場所へ進入していくわけにはいかず、基本的にはレスキュー隊の出動を要請することになる。空気呼吸器があったとしても、消防士が使うような装置は1セット20kgにもなるそうだ。この装備で意識のない労働者を担ぎ上げるのは二人がかりでも難しいという。発生してからでは、手遅れになりかねないのが、酸欠災害の怖さといえよう。
逆にいえば、知識を十分に身に付けておけば、十分な対策を講じることができるということだ。厚生労働省では、酸素欠乏症の災害事例をイラスト入りで分かりやすく示したリーフレットを作成しており、インターネットで簡単に入手できる。こうした教材を上手に利用しながら、働く人全員に周知徹底を図りたい。