【見逃していませんか?この本】イスラムとパリの平等主義は「高度に共存可能」/エマニュエル・トッド『シャルリとは誰か? 人種差別と没落する西欧』

2016.04.09 【書評】
  • list
  • クリップしました

    クリップを外しました

    これ以上クリップできません

    クリップ数が上限数の100に達しているため、クリップできませんでした。クリップ数を減らしてから再度クリップ願います。

    マイクリップ一覧へ

    申し訳ございません

    クリップの操作を受け付けることができませんでした。しばらく時間をおいてから再度お試し願います。

 のっけからトッドは、日本への親近感を吐露する。「日本は私にとって、知的な足場の一つであり、心理的安定の拠り所なのです」(同書、日本の読者へ)。それはフランス国内で貶められた本書の評価に対する反発が含意されている。なぜなら同書は、多くのメディアから叩かれ、「全体として冒涜的なものと解釈された」(同前)からだ。

 何がそんなにフランス社会を激怒させたのか。

 トッドは、先進世界の宗教的危機、平等原則の失墜に起因する「スケープゴート探し」について、「宗教的空白+格差の拡大=外国人恐怖症」という(本人曰く)「極端に単純化した等式」をあえて引き出す。

 フランスでは、それが大規模な「シャルリ」のデモとなって現れたというのだ。

 トッドはこれを「数百万のフランス人が大急ぎで街に出て、自分たちの社会に優先的に必要なこととして、弱者たちの宗教に唾を吐きかける権利を明確化しようとした」(同書)と評する。実に辛らつだ。

 トッドはいう。カトリシズムが崩壊して無信仰になるなかで、自らの宗教を冒涜することをよしとするがゆえに、他者の宗教も冒涜することができると考えると。その証拠にかつてヴォルテールは、「自分の宗教と、自分の宗教の源である宗教を冒涜した」(同前)に過ぎず、イスラム教やプロテスタンティズムについては関知しなかった。つまり、近年の著しい宗教の衰退こそが「シャルリ」現象の背景にあるとみているのだ。

 そして、真の問題はイスラム教徒たちにあるのではなく、フランスをはじめとした先進国に共通する、グローバリゼーションによる市民集団の同質性の溶解に伴う「社会統合の失敗」にあると。

 事実、移民二世・三世の若者たちは、自文化の崩壊に直面する一方で、機会の不平等という悪夢にさいなまれている。

 だが、トッドはそんな状況であっても、「(信仰は衰退したが、価値観としては生きている)イスラム教がフランスの政治文化をポジティブに回復することに貢献するのではないか」と問うべきだという。アラブ文化の中にある反フェミニストな要素がなくなれば、イスラム教はその平等主義ゆえに、パリ盆地や地中海沿岸地方の平等主義と「高度に共存可能」であるとさえ。

 フランスに次いで同じく移民を多く抱えるベルギーでもテロが起こった。

 トッドの主張が正しいかどうかは、社会的排除の解消にこそかかっている。(N)

堀茂樹訳、文藝春秋・994円/Emmanuel Todd フランスの歴史人口学者、家族人類学者。『移民の運命』『帝国以後』など

Amazonで購入する 楽天ブックスで購入する

関連キーワード:
    • 広告
    • 広告

    あわせて読みたい

    ページトップ
     

    ご利用いただけない機能です


    ご利用いただけません。