【主張】労使利益バランスも大切
厚生労働省は、当初の予定より大幅に遅れて働き方改革推進法案を今通常国会に提出した。一部の野党、マスコミは、裁量労働制の対象拡大に続いて、高度プロフェッショナル制度の同法案からの削除を要求している。
しかし、これまで労働法改正の多くのケースは、労使双方の利益バランスを強く意識して最終決定してきた経緯がある。いくら模範的な改正でも労使が納得の上でなければ、職場に定着しない。どちらかに一方的に不利になるような改正内容では、新たな法令が職場に馴染んで順守されるようになるか、極めて心配である。
同法案をみると、最長で年720時間などとする時間外労働の上限規制強化を始め、月60時間超の時間外労働に対する割増率50%の中小企業への適用拡大、使用者への年5日の年次有給休暇付与義務化、インターバル規定の整備、不合理な待遇格差の解消――などを明記している。いずれも、労働者にとって有利な改正ばかりといえよう。
使用者側が歓迎すべき項目は、裁量労働制の対象拡大が法案から削除された後、ほとんど高プロ制の創設しか残っていない。長時間労働の防止を強化する一方、イノベーションとグローバリゼーションの拡大に対応した高度な裁量性を有する働き方を法制化したいという使用者側の希望が縮小しつつある。これでは、いくら何でもバランスを欠いている。
そもそも労働法改正を検討する審議会が、なぜ公労使による三者構成になっているかを改めて振り返るべきだ。生きた職場を対象とする労働法改正では、どちらかに一方的に有利な内容となっては、却ってトラブルの元になってしまう恐れがある。
高プロ制といっても対象となる労働者は3%に満たない。しかも、本人の合意が前提で、年収基準は法律に明記する予定としている。何もかも反対して高プロ制まで削除を要求するのではなく、さらに良い制度にするための建設的審議を行うべきである。そして、職場にとってできる限りバランスの良い改正にしてもらいたい。