【見逃していませんか?この本】〈こんなはずじゃなかった感〉の正体/宮台真司『社会という荒野を生きる。』
宮台真司といえば、『援交から天皇へ』(朝日文庫)という自著のタイトルに表わされる通り、どんな社会問題もバッサリと切れ味鋭く論じる異色(褒め言葉です)の社会学者。二十年以上続くTBSラジオ「デイキャッチ」の辛口コメンテーターとしても知られ、油断しているとお下品(?)な言葉も繰り出されるため、多くのリスナーをハラハラドキドキさせている。
本書は、そんな名人芸の域に達しているといえる辛口トークをテーマごとにまとめた永久保存版だ。
最先端の社会学のエッセンスを最新時事に絡めて…と聞くと小難しそうな印象を抱くかもしれないが、身近な言葉に圧縮して説明してくれるので、予備知識がなくとも目からウロコの連続である。
なかでも重要なのは、95年を一つの時代区分とみなし、20年後の今日と問題意識を共有するところ。キーワードは社会の空洞化だ。
オウム真理教の事件が起こったとき、前代未聞の国家転覆計画もさることながら、一般的にエリートとされる人々が加わっていたことに多くの識者が驚いた。
宮台は、社会思想家アクセル・ホネットの「愛による承認」「法による承認」「連帯による承認」の枠組みを用いて動機の背景を分析する(『承認をめぐる闘争』)。三つ目の「連帯による承認」は、(家族や地域など)〈共同体にとっての価値〉を認めてくれる社会がやせ細り、厚みを失ってしまったので、一定のステータスを得ても〈こんなはずじゃなかった感〉を抱きやすいという。
これは、現在、先進国などからイスラム国などの過激派に参加する若者の動機に似ていると指摘する。彼らは「自分の〈共同体にとっての価値〉をめぐる代替的な承認の場だと思い込んでやって来る」という。しかもこの状況は決して好転せず、抜本的な解決策もない。なぜなら社会がどんどん空洞化しているから。
かと思えば、高崎山動物園がお猿の名前を「シャーロット」と名付けた一連の騒動では、英国王室の意向を勝手に忖度(そんたく)して騒ぎ立てる「忖度社会」の弊害を追及。「勝手に忖度せずに当事者の意向を伺った」高崎山動物園と大分市に敬意を表し、これが国際的見識であり当事者抜きのインチキ忖度は「日本の恥」と諫めている。
次々と繰り出される「正論」のラッシュにノックアウトされること請け合いだ。(N)
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みやだい・しんじ、ベストセラーズ・1512円/社会学者、映画批評家。『14歳からの社会学 これからの社会を生きる君へ』『私たちはどこから来て、どこへ行くのか』『〈世界〉はそもそもデタラメである』など