テレワークと事業場外みなし労働時間制/弁護士 川久保 皆実
実際にテレワークの労働者に事業場外労働を適用するには
これらを踏まえて、「テレワークの労働者について事業場外みなし労働時間制を適用するのって実際どうなの?」という点について、個人的に考えるところを以下述べていきたいと思います。
労働者がテレワークをする環境は、大きく2つに分かれます。
一つは、事業場外にはいるけれども、仕事だけに集中できる環境です。例えば、サテライトオフィスで働く場合や、出張先のホテルの部屋で働く場合、台風や大雪などで出勤が困難なときに自宅の書斎にこもって働く場合などはこちらに当たります。
もう一つは、仕事とプライベートが混在する環境です。例えば、熱を出して保育園に預けられなかった子供の世話をしながら自宅で働く場合や、随時ケアが必要な親の介護をしながら実家で働く場合などはこちらに当たります。
前者の場合、仕事と私用の時間を分離することが可能であるため、始業時・終業時に上長にメール等で連絡をさせるなどして、比較的容易に労働時間を把握できると言えます。
また、前者の場合、テレワーク導入のメリットはどこにいても会社に出勤しているのと同じように働けることであるにもかかわらず、事業場外みなし労働時間制の適用によって業務の連絡や指示に制限がかかってしまうと、かえって仕事がしづらい状況に陥りかねません。
他方、後者の場合は、仕事の時間と私用の時間が入り混じっているため、労働時間を算定するのが非常に困難であると言えます。
また、後者の場合、テレワーク中の労働者は、育児や介護等の私用の最中に仕事の連絡や細かい指示を受けても対応できないため、上記の要件(1)(2)の縛りがあることによって、はじめて仕事と私用を同時並行で行うことが可能になります。
このように見ていくと、先のガイドラインが事業場外みなし労働時間制の適用場面として想定しているのは、まさに後者の場合であると言えるでしょう。
事業場外みなし労働時間制は、使用者に課された労働時間把握義務が例外的に免除される制度であり、労働者に不利に悪用されるおそれがあることから、裁判所はその適用の可否について厳格に判断する傾向があります。
したがって、テレワークだからといって安易に事業場外みなし労働時間制に飛びつくのではなく、テレワークであっても可能な限り労働時間を把握するというスタンスをとるべきです。そして、それが事実上困難な後者のような場合にのみ、上記の要件(1)(2)に留意して事業場外みなし労働時間制を適用するというのが、会社の法的リスク予防にもテレワークの効果的な導入にも資するのではないかと考えます。
弁護士 川久保 皆実(かわくぼ みなみ)
(鳥飼総合法律事務所)
東京大学法学部卒業、東京大学大学院法学政治学研究科修了。ITベンチャー企業での勤務(企画営業職)を経て、弁護士となり、現在に至るまで鳥飼総合法律事務所所属。労務(企業側)を専門とし、経営者の身近な存在として日々アドバイスをすることを通して、労働紛争を未然に防ぐことに力を注いでいる。
【資格】弁護士、第一種衛生管理者、メンタルヘルス法務主任者
【所属】第二東京弁護士会労働問題検討委員会、日本テレワーク学会、日本テレワーク協会「ライフコース多様化とテレワーク」部会
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