【主張】送検数の減少に歯止めを
本紙報道によると、全国の労働基準監督署が平成28年中に悪質法令違反事件として司法処分した数は、合計で890件、人数にして1786人に留まったという(5月14日号1面既報)。
政府がこれから始めようとしている働き方改革を実効性あるものにするために、司法処分の件数を減らしてはいけない。実態は、長年にわたって減少傾向が続いており、何とかして歯止めをかけ、増加に転じさせなければならない。働き方改革の本気度が問われている。
働き方改革推進法案では、罰則付き時間外労働規制の創設のほか、高度プロフェッショナル制度の導入をめざしている。今回は断念したものの裁量労働制の対象拡大も再検討中である。
近来にない労働基準法の大改正といってよく、法案が成立すれば、企業運営上大きなインパクトがあろう。しかし、法令施行の土台を支える労働基準監督行政の実効性が置き去りになるようでは、いくら大改正でも画餅と化してしまいかねない。
法令遵守に向け十分な違反摘発が実行できないと、野党から突き上げられたり、働き方改革に対する国民からの信頼も損ねてしまうだろう。せっかくの大改正が看板倒れになったら困る。
司法処分は、単に件数を増加させればいいというものではないが、労働基準監督官が増加しているにもかかわらず、逆に減少傾向が明確なのは問題がある。いくら監督官を増員しても取締りが追い付かない実態を示している。
そもそも監督官が労働基準関係分野の司法警察官であることすら理解していない中小零細企業が多い。監督官が刑事訴訟法上の大きな権限を有していることをできる限り広く周知するには、司法処分の敢行が一番である。
司法処分の増加を危惧する企業も多いだろうが、実際はそうではない。法令を遵守している企業が不利にならないよう不公正競争を取り締まる意味が大きいと考えるべきではないか。ブラック企業を追い詰め一掃するにしても、伝家の宝刀で対処するのが効果的である。