副業・兼業解禁の留意点/弁護士 瓦林 道広
政府は、働き方改革実行計画(平成29年3月28日)において、「柔軟な働き方がしやすい環境整備」の一内容として、副業・兼業の推進を掲げました。これを受けて、平成30年1月には、厚生労働省より、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」が出され、同省のモデル就業規則は、従前の副業・兼業原則禁止の内容から、副業・兼業を原則認める内容へと変更されました。
このように、普及が促進されている副業・兼業(以下、「副業」といいます。)ですが、実際に副業を解禁する場合には、様々な留意点があります。
副業・兼業が推進されるに至った経緯
従前、多くの会社が就業規則で副業を禁止していました。平成30年1月までは、厚生労働省のモデル就業規則でも副業禁止規定が入っていましたが、これは一つの会社で定年まで勤める終身雇用・年功序列型賃金の雇用形態を想定したものといえます。
しかし、労働力人口の減少や働き方に対する価値観の多様化等から終身雇用の慣行は崩れつつありますし、長期にわたる不景気によって年功序列型賃金も保てなくなっていることから、企業ルールは徐々に変化しています。副業ができると、社員からすれば本業以外でスキルアップを図ったり、所得を増やしたりすることができますし、会社からすると、副業を認めることで優秀な人材の確保や事業機会の拡大を図ることができるというメリットもあるため、副業を解禁する会社も増えてきているのです。
このような背景もあって、国も「働き方改革」の一環として副業禁止を緩和する方向に動きだしたのです。
なぜ、副業・兼業は禁止されていたのか
就業規則で二重就職が禁止される理由は、自社での効率的な就労の妨げになったり、他社に企業秘密等が漏れたりすることを防ぐためです。
例えばイベント運営を行う会社において、在職中、社外で同業の仕事をした社員の解雇を有効とした裁判例があります。本業の会社と競業する仕事を副業にすると、本業会社の顧客奪取につながることもありますし、本業の企業秘密が副業先に漏れる可能性も高いので悪質だと見られやすいです。
今後、副業を認める会社が増えたとしても、「本業に支障を生じさせないこと」は前提条件になると考えられますので、副業する場合、社員は、どのような形であっても本業に支障を来さないように注意する必要があります。
一方、会社は就業時間中であれば労働者に指揮命令する立場にありますが、私生活には原則として会社の管理は及ばないと考えられているため、副業をしても、本業に具体的な支障を来さなければ直ちに懲戒処分の対象となるわけではありません。
例えばタクシー運転手が勤務前の早朝2時間程度、新聞の配達や集金を行なっていた事案の裁判例では、就業規則に兼業禁止規定がありましたが、本業であるタクシー運転手業に格別に支障を生じさせるものではないとして懲戒解雇は無効と判断されています。
残業代はどうなるの?
労働基準法第38条によれば、本業の会社と副業先の会社での労働時間は通算することになります。例えばAさんが本業のB社で一日6時間働き、さらにC社で4時間副業した場合、法定労働時間は一日8時間ですので、C社での労働時間のうち2時間は割増賃金の支払対象となります。
この割増賃金をB社とC社のどちらが支払うかですが、C社は、法定労働時間を超える労働になると分かっていてAさんを雇用しているので原則としてC社が割増賃金を支払う立場になると考えられています。しかし、B社も、AさんがC社で副業することを許可しているのなら、その通算労働時間を把握しているはずですから、割増賃金の支払義務を負う場合があります。例えば、上記の例だと、B社は、AさんがB社での勤務後にC社で4時間の労働を行うことが分かっているのであれば、B社における所定労働時間の6時間を超えて、8時間の労働をさせたとすれば、6時間を超えて労働させた2時間分については、割増賃金を払わなければならないと考えられています。詳しくは厚生労働省が出している「副業・兼業の促進に関するガイドライン」Q&Aに記載されていますので、ご参照下さい。
労働時間を通算した場合の割増賃金支払義務者は分かりにくく、事案ごとの検討が必要ですが、会社が副業を許可する場合、無用なトラブルを発生させないよう副業許可に関するルール作りを慎重に行うべきでしょう。
なお、副業が個人事業や業務委託の場合は、当然、割増賃金は発生しません。