【ひのみやぐら】人口減少社会の労災防止
すでにわが国では、人口減少が始まっている。国立社会保障・人口問題研究所のデータによると、2015~2065年の50年間で約4000万人が減ると見込んでいる。15~64歳までの生産年齢人口は4529万人まで減少するとした。ただ、人口が減っているだけでなく、高齢化という課題も並行していることも忘れてはならない。したがって生産年齢人口は高齢者の介護という問題と向き合いながら、仕事に取り組むこととなる。
現在、建設業や運輸業などで人手不足が深刻になっている。この状況は景気が上向いている今だけでなく、人口減少社会が及ぼす慢性的な問題として捉えたい。人手不足の問題は、総合的な目で見れば、国力低下という重大な危機として懸念されるところだが、労働災害防止という観点からも見逃すことはできない。人手不足になると、一人にかかる作業量が増え、疲労感が出てくる。影響はヒューマンエラーという形で顕在化し、不安全行動から労働災害へとつながっていく。さらに一人にかかる仕事の量の増加により、労働者は常態的な時間不足に陥り、伝達漏れや教育不足を引き起こし、ミスや事故の多発を生むことになる。事故が起きれば、後処理の必要が生まれ、結果として悪循環に見舞われることになる。
このような人手不足による労働災害増加に警鐘を鳴らすのはランスタッドEAP総研の川西由美子所長と山越薫シニアコンサルタントだ。焦りと疲労感に侵された組織には、士気を再度管理する教育が重要になると指摘する。今号特集Ⅱでは、「安全維持のための士気管理教育」を紹介。その具体例として、ストレスを抱える組織のために、人の心を育む「川西式改善会話」を示している。
総人口が大幅に減少し、働く人の人口割合が大きく減少するなか、女性の活躍、シニア層の再雇用を中心にダイバーシティが求められ、さまざまな施策を展開しようと模索が進む。いろいろな立場の人の躍進が要求されるなか、「見て覚えろ」「オレについてこい」といった高度経済成長時代の育成方法が限界なのはいうまでもない。人と人とをつなぐ、新たな職場環境づくりが必要になる。