【見逃していませんか?この本】長時間労働による書類送検の裏側は?/新庄耕『カトク 過重労働撲滅特別対策班』

2019.01.05 【書評】
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 長時間労働の実態が同一企業の複数の支店で行われるなど、対象労働者が多い大規模事案や実態把握が困難な事案に対応しているのが「カトク」だ。正式名称は「過重労働撲滅特別対策班」で、2015年4月に東京、大阪の2労働局に設置された。

 これまでに電通のほか、ABCマート、ドン・キホーテ、フジオフードシステム、サトレストランシステムズなどを労働基準法第32条(労働時間)違反などの容疑で書類送検している。

 本書は東京労働局内に設置されたカトクを舞台にしたあくまで「架空」の物語。小説内の、社員に違法残業をさせた企業を書類送検するに当たり、入退館記録や通信記録をもとに労働時間を確定していく捜査の様子はリアリティーにあふれる。よりリアリティーがあるのは、大手住宅メーカーを舞台にしたパワハラまがいの顛末か。

 長時間労働を取り締まる側の労働基準監督官もまた、決して労働時間が短くない――そんな実態も描いた。現に小職がある労働基準監督署の担当者とFAXのやり取りをした際、先方の送信時刻が22時近かったということもある。

 主人公が労働基準監督官に任用されてから感じる、「飲食店の店員や重機を動かす作業員といった街で見かける労働者に気を配る癖」は小職も同じだ。労働者数が少ないのに開店時間の長い店に行けば「ちゃんと休憩時間を取れているのか」、工事現場の前を通れば「あれは適切な足場なのか」などと考えてしまう。

 適正な労働条件確保に向けて身を粉にして働く労働基準監督官に光を当てた好著だ。

しんじょう こう、文春文庫・788円/1983年京都市生まれ、小説家。『狭小住宅』で第36回すばる文学賞受賞。

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