【見逃していませんか?この本】旅の悪食に共感/西加奈子『ごはんぐるり』
2016.08.14
【書評】
西加奈子といえば、『サラバ!』で、第152回直木賞に輝いたことで知られる作家であるが、この本は小説ではなく食にまつわるエッセイが中心だ。
「謙遜でも、なんでもなく、私が作る料理というのは、とても『普通』・・・出来上がった料理も、全体的に『茶色~』という感じ」――冒頭にこう示す通り、食にまつわるエッセイといえど、グルメ本に非ず。日常的な「食」に関するエピソードが綴られていて、そのどれもがほほえましい。
『旅の悪食』の章では、旅に出る車中で普段食べないジャンクフードを口にしてしまうと書かれており、その理由を「旅行の道程で何かを食べることに、私は特別な楽しさを感じるらしいのだ」と自己分析する。
確かに、わが身を振り返ってみても、子供の頃に飛行機内でスープをやたらとお代わりしてお腹がちゃぽちゃぽになったことがあったし、今でも長距離移動の際はつい、スターバックスのventiサイズのドリンクを買い込んで列車に乗ってしまう。大食漢のため、西のように旅先で土地のものを残してしまうということこそないものの、「ventiサイズのドリンクを飲んでなければ、もう1品注文できたな・・・」と後悔することはままある。
本全体を通して、生きることに最も寄り添った行為である「食」への温かい思い入れが感じられる。夏バテで食欲が落ちた今の時期、この本を読んだら、食欲が湧いてくるかもしれない。(M)
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にし・かなこ、文藝春秋・604円/作家。『サラバ!』『まく子』『ふくわらい』など
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