【見逃していませんか?この本】「時代の反映」に挑むこんな落語もアリ!/藤井青銅著・柳家花緑脚色・実演『柳家花緑の同時代ラクゴ集ちょいと社会派』
「落語って、元々、世の中の出来事や話題を面白おかしく語ったんですよね(中略)江戸時代に『え~、今日はお古い安土桃山時代の噺を…』とはやってない。落語が誕生した時って、演者もお客さんも共通の環境にいるんです」――そんな柳家花緑の思いを受け、放送作家の藤井青銅が執筆したのが「同時代落語」だ。要は、その時代に起こったことを落語にするということで、洋服を着て椅子に座りながら公演するのがポイント。本書は、藤井が書き、花緑が演ったネタを文字に起こし直してまとめたものである。
たとえば『はじめてのおつかい』は、当時話題となった小惑星イトカワまで行った「はやぶさ」をネタとしたもの。はやぶさが打ち上げられ、長い宇宙の旅を経てイトカワまで行き、そして燃え尽きるまでの出来事を擬人化して描いている。初演は2011年4月の草月ホールで、丁度私も聴いたが、震災直後の沈んだ気持ちがどれだけ楽になったことか。
その時代に起こったことに対して向き合っていることから、東日本大震災もネタの中に盛り込む。真っ向から捉えているのが『揺れる想い』(11年9月に初演)で、やはりこれも会場で聴いていたが、笑いの中にきちんとその時代を反映していて「名作だ」と感慨に浸ったことを、本書を読んで改めて思い出した。震災を風化させない方法には、こんな手もある。
世界初(?)の金融落語『外為裁き』や、子役人気を鮮やかに描いた『大女優』なども収録。
巻末にはQRコードも記載。読み取ることで、一部公演をスマホなどで聴くこともできる。目で、耳で、「こんな落語もあるのか」と感じてもらえれば幸いだ。
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竹書房・1728円/放送作家。ふじい・せいどう=放送作家、1979年「第1回星新一ショートショート・コンテスト」に入選以後幅広く活躍。ウッチャンナンチャンやオードリーの『オールナイトニッポン』でも有名。/やなぎや・かろく=1987年、祖父の五代目柳家小さんに入門、戦後最年少の22歳で真打昇進。落語家としてはもちろん、現在は舞台でも活躍している。