【見逃していませんか?この本】「悪の構造」を顕在化させる試み/半藤一利、佐藤優『21世紀の戦争論 昭和史から考える』

2016.08.13 【書評】
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 戦後70年などと聞くと、「戦争」がずいぶん遠い昔の出来事のように感じられるが、今も世界中で毎日のように起こっている悲劇は紛れもなく「戦争」である。ただし、「戦争」の姿は大きく様変わりしてしまった。「対テロ戦争」などはその最たるものだ。

 半藤一利は冒頭、そのことについて触れ、第二次世界大戦までの戦争と21世紀の戦争は「まったく形態が異なる」と述べ、無人機攻撃、自爆テロ、「イスラム国」などの現象を挙げる。しかし、その一方で、半藤は変わらないものがあるという。「こうした戦いも、やっているのは人間だということです」――そう、歴史は人間によって作られ、それゆえいつの時代も同じ過ちを犯すだろうと。

 本書は、作家で元外務省主任分析官の佐藤優が、「昭和史研究の第一人者である半藤一利氏にお願いして、昭和史の中に組み込まれている悪の構造を顕在化させること」を試みたもの。いわゆる対談を書き起こして各人が手を入れたものであるが、ソ連・ロシアの専門家である佐藤の博覧強記な応答と化学反応を起こし、忘れ去られていた日本の戦争が現代を生きる私達の教訓として迫ってくる。まるであの戦争はまだ終わっていないとでもいうように。

 七三一部隊、ノモンハン事件、終戦工作、軍事官僚機構等々、話題が多岐にわたるだけでなく、従来にない視点も交えているので推理小説のような知的興奮がある。

 例えば、昭和天皇は戦争末期、細菌兵器による攻撃の裁可を求めた参謀総長に対し、「殺戮用細菌は使用してはならない。国際的忠義は大切にしたい」と伝えられたとされる。これを半藤は、「国を救った、もうひとつの聖断」と評価する。

 「昭和史を武器に変える十四冊」と題したブックガイドでは、さらに深く知りたい読者向けにとっておきの良書を紹介してくれている。

 読書家にも配慮が行き届いた構成が心憎い。(N)

 はんどう・かずとし 作家。『日本のいちばん長い日 決定版』『ノモンハンの夏』など/さとう・まさる 作家。『国家の罠』『自壊する帝国』『世界史の極意』など/文藝春秋・896円

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