【主張】経済規模の拡大を前提に
厚生労働省がまとめた雇用政策研究会(樋口美雄座長)の報告によると、今後は就業面から「ウェル・ビーイング」の向上を図り、労働者一人ひとりが、自ら望む生き方に沿った豊かで健康的な職業人生を安心して送れる社会を築いていくことが重要と訴えている。しかし、ウェル・ビーイングを達成するには、基盤となる経済成長が不可欠である。経済成長への道筋が描けない現状では説得力に欠けるといわざるを得ない。
ウェル・ビーイングとは、個人の権利や自己実現が保障され、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあることを意味する概念としている。理想的ではあるが、前提として労働時間の縮減や同一労働同一賃金、賃金と最低賃金の引上げ、非正規労働者の正社員転換など多くの政策を達成する必要があるという。政府が、ウェル・ビーイングをめざすのであれば、その前にもっと経済成長をめざした現実的政策を採るべきである。
わが国の名目国内総生産(GDP)は惨憺たる状況が続いている。平成30年度のGDPは557兆円だが、この数字は10年ほど前と比較して大きな変化がない。19年のGDPは530兆円だった。それ以前の10年間をみても500兆円台の前半を行き来するばかりであった。要するに、わが国の経済規模は、少なくても20年間の間、厳しい停滞が続いていることを意味する。
GDPの長年にわたる停滞はわが国にとって致命的である。世界のGDP総計はこの間に3倍近く増大しており、取り残された感が否めない。結果として、中国には大きく水を空けられ、インドにも追い越される可能性がある。これは数字上の話ではない。わが国国民が相対的に貧困化するとともに、国力が減退したことを意味している。
政府は、経済規模を拡大するために今後どのような経済政策を打つべきか、改めて問い直してもらいたい。就業面のウェル・ビーイングを実現することは大切だが、画餅に終わらせてはならない。この先もデフレに近い状態が長く続くようでは国民の不安がますます高まり、気持ちはさらに守りに入ってしまう。