【主張】固定残業手当制へ包囲網
「固定残業手当制」が、ブラック企業の代名詞となりつつあり、これを運用している企業は制度廃止を検討すべき時期に来ている。
昨年10月に施行された若者雇用促進法に基づく指針によると、固定残業手当制に関する情報の明示を求人企業に義務化している。長時間にわたる時間外労働をさせているにもかかわらず、固定額以上支払わない企業が少なくないためである。
固定残業手当制は、適切に運用していればもちろん違法ではないが、割増賃金の算出コスト節約以上のメリットは想定できない。労働法令に不明な若者を使い捨てるブラック企業と同列にみられないためにも、これを見直すのが最善であろう。
固定残業手当制あるいは時間外手当を基本給に含めて支払うケースがみられるが、これらの法的取扱いは、すでに判例・通説で明らかになっている。仮に、労働契約の締結時に労使間で「合意」していたとしても、強行規定である労働基準法第37条に違反して無効となる可能性がある。
つまり、時間外手当を固定額で支払っていたと主張しても、計算上固定額をオーバーしている場合、企業はそのオーバーした時間外手当の支払いを免れることはできない。時間外手当が固定額に達しない場合のコストを考慮に入れれば、制度を存続させる意味が薄れる。
若者の良好な雇用を阻害しかねないと考えた全国求人情報協会(丹澤直紀理事長)も、今年12月から不適切な固定残業手当制の締め出しを始めるという。固定残業手当制を運用している企業から人材募集広告の掲載依頼があった際に固定額の明確化とともに、その金額に充当する時間外労働時間数および固定額を超える時間外労働に対する追加支給について表示していないときは、広告掲載を拒否すると決めた。併せてチェックシートを作成し、求人企業に活用を呼び掛けているという。
求人広告の掲載料で成り立つ同業界企業が、掲載拒否をしてでも若者の雇用健全化を図ろうとする姿勢は評価できる。固定残業手当制への包囲網は狭まりつつある。