【主張】近接し明暗分かれた裁判員裁判
法科大学院と裁判員制度は司法制度改革の目玉だった。前者は惨状を極めているが、後者は企業の協力も順調に進み、当初の思惑どおりに実績を残しているかにみえる。最高裁は、裁判員制度を導入するに当たり、裁判官、検察官、弁護士といった専門家中心の裁判は、「専門的な正確さを重視するあまり、審理や判決が国民にとって理解しにくいものとなる傾向があった」と率直に反省し、国民の司法参加により、その知識経験を生かす必要性を強調した。
ただ、対象となる裁判は、殺人・強盗致傷・放火・身代金目的誘拐といった凶悪事件に限定されており、国民にとっては裁判員選出に忌避傾向が、一方の裁判官の一部には専門家のプライドを傷つけられたとする向きもあり、裁判官3人と裁判員6人からなる合議がスムーズに進むかという懸念があった。とりわけ、裁判員は一審だけの参加で、控訴審や上告審は裁判官だけが行う制度について非難もある。これにくさびを打ち込んだのが、2月13日の上告審判決(第一小法廷)といえよう。
覚醒剤密輸事件で一審の千葉地裁裁判員裁判で無罪とされた後、二審の東京高裁は懲役10年・罰金600万円をいい渡し、一転有罪となった。上告審では、裁判員制度が導入された09年5月21日以来初めて、控訴審判決を取り消し、全面無罪の判決となった。
補足意見で白木裁判官は、「控訴審の実務では、まず自分の心証を形作り、一審判決と差があれば変更する場合が多かった。この手法は改める必要がある」と専門家の立場で反省の意見を披露している。
方向は、まったく異なるがもうひとつ問題が浮上した。一昨年1月から始まった東京・千葉・埼玉の連続不審死事件審理では、被告の木島佳苗容疑者は合わせて10件の罪に問われているが、状況証拠が大半を占め、判決まで100日間を要すると見込まれる。通常1週間程度で終了するから60人の裁判員候補を選出するがその数330人にも上った。日当1万円で100日間もの拘束に、辞退者が続出するとの観点から増員したもの。裁判員制度の明暗が偶然にも近接して生じたわけだ。