【主張】高止まりの労基法違反率を嘆く
厚生労働省がまとめた「平成23年定期監督等実施結果」によると、労働基準法や労働安全衛生法などの違反率は67.4%に達している(本紙6月25日号2面参照)。
労働法学会の泰斗だった山本吉人法政大学元教授が、81年冬季の「季刊労働法」に寄稿した「労働基準監督行政の理念と課題」論文の中で「監督実施事業場において、この数年常に60%台の違反が摘発されるという統計数値は、労基法最低基準でさえ、6割以上の企業では大なり小なり無視されていることを物語っている。これは、中小零細企業に限定されているのではなく、かなりの大企業においても同じ傾向とみてよい」と嘆いておられた。今から30年も遡る当時のことである。いいかえれば、この違反率は30年間高止まりのままということだ。大企業での違反の典型は外食産業の大手チェーンで店長を法第41条第2号の管理監督者として扱う割増賃金不払い。「名ばかり管理職」として社会問題化し、大企業だからコンプライアンスがしっかりしているという認識を裏切った。
労働基準監督機関は、労基法に定める最低労働条件の履行確保を図るため、法違反があっても是正勧告を中心に行い、重大な法違反や数次の是正勧告を無視した場合のみ、刑事法規としての司法処分が発動される。このため、承知で法違反に走る事業主は後を絶たず、労基署が事前に自主点検方式のアンケート用紙を配布し立入調査に及んでも、高い違反率となることは少なくない。これでは、労基法をまったく無視しているといわざるを得ない。
司法処分されても検事が立件する可能性は非常に低いものの、もはや是正勧告方式ではこの状態から脱しきることはできまい。有期労働法制が労働者保護の強化に乗り出す一方で、有期でさえ就職できない労働者は増加し、結果として基準行政を補完する労働者からの「申告」も低下することが懸念される。最低基準以下の労働条件でも「職があるだけ増し」というネガティブ指向が強まる可能性が高いというわけだ。高止まりの法違反率はこのまま続こう。