【主張】地賃審にまたも経営の声届かず
平成24年度の地域別最低賃金が出揃った(本紙9月24日号1・2面参照)。全国平均引上げ額は12円で、前年の7円を大きく上回り、上昇傾向に歯止めがかからなかった。これは中央最低賃金審議会が目安額決定の議論を始める前から、予想されていたこと。
最賃法第9条第3項には、憲法第25条にうたう生存権を背景として、09年の改正で「労働者の生計費を考慮するに当たっては、健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう、生活保護に係る施策との整合性を配慮するものとする」という規定が、登場しているからだ。生活保護費との逆転現象は、昨年改正時には北海道、宮城、神奈川の3道県に留まっていたものが、今年はその後の社会保険料の増加によって11都道府県に増加するという悪条件があった。案の定、青森、埼玉、千葉、京都、兵庫の5府県では、逆転が解消された。
問題の最賃額は、東京都の850円から島根・高知の652円にまで広がり、その格差は大きい。最高額の東京では、今年、全国平均を上回る13円の引上げが行われたが、生活保護費の方がまだ7円高い。これは、常識的に考えれば生活保護費が高過ぎるという結論になろう。地域によって違いがあるが、生活保護の受給者には、医療扶助、住宅扶助、教育扶助なども加算される。東京の場合、68歳の単身者に毎月8万820円、65歳と68歳の夫婦世帯には、国民年金の満額に匹敵する12万1940円が支給されるそうだ。これでは働くのも、年金保険料を納付するのも、ばからしくなってしまう。
小宮山前厚労相は、芸能人の扶養家族が行った生活保護受給に関し「年金額の切下げなど国民に痛みを強いる改革の中、生活保護者を特別扱いしない」とし、支給水準の引下げも検討するとしているが211万人と膨れる一方の受給者を説得する見通しがあってのことだろうか。本紙9月24日号7面には、産業界での優位性がゆえに存在した東京の特定(産別)金属系3業種の最賃が、地賃の上昇圧力に敗れ効力停止となったという衝撃的な記事が載っている。ぜひ一読していただきたい。