【主張】キャリア育成と企業の人材管理
厚生労働省は、このほど「非正規雇用労働者の能力開発抜本強化に関する検討会」をスタートさせた。構成員は、通常の公労使三者構成によるものではなく、実際に労働者に接する機会の多い企業の人事担当者や単位労組の労働組合員も加わり、「より実務的」な検討を行うとしており、期待が大きい(本紙10月8日1面参照)。過去3年間にわたり同省が調査しているところによると、集合訓練や自己啓発支援を行っていない企業は6割を占め、非正規雇用労働者のキャリア形成に関心の薄いことが判明したのがきっかけ。
こういう実情を打開するため、関連事業を合計すると約6000億円に達する一大事業を省内横断的に展開するもよう。このうち、検討会では、予算要求額2435億円を投ずるキャリア形成支援対策のベースとなる方針の策定に当たる。流通サービス業、外食産業などパートの多い業種の成功事例などを参考に「無期雇用」への転向を図ることを目的としているようだが、不安を覚えるのは身に付けたキャリアを生かす社内風土をどう形成するか。これまで単純労働とみなされていた分野の社員がキャリアを積んで、正社員(無期雇用)になった場合、その後の道筋をどう描いていくかである。
キャリアの程度・知識習熟によっては、正社員登用や現在の業務の継続だけでは、到底納得しまい。年功により自然に形成されたものと集合訓練や登用試験で鍛えられて形作られたキャリアをどう格付けしていくのだろうか。全員をキャリア社員や無期契約者で一括りして片付けられる問題ではなかろう。キャリアを生かす場を与えるのが企業の責任となるが、果たしてそれに応えられるのだろうか。
形成されたキャリアを活用できないで、非正規時代と同じ業務を担当させるわけにはいかず、職業に貴賎の差はない、という方便も通用しまい。全労働者数の3割にも達している非正規労働者全員がキャリア社員となったら、企業は成り立つのか単純に疑問を持った。ともあれ、成功例を参考にしながら能力開発の抜本強化を図るとする政策の行く末を見守りたい。