【見逃していませんか?この本】アスリートから学ぶ「権限委譲」の重要性/本橋麻里『0から1をつくる 地元で見つけた、世界での勝ち方』
2018年の平昌オリンピックでのカーリング女子銅メダル獲得は、覚えていらっしゃる方も多いだろう。銅メダルを獲得したチーム「ロコ・ソラーレ」を立ち上げた著者が初めてまとめたのが本書だ。
半生を振り返る内容だが、ビジネスマンが読んでもなかなか面白い。組織の活性化、コミュニケーション、リーダーシップ――と、読者諸兄が日々頭を悩ませる問題の解決の糸口になりそうなエッセンスが詰め込まれている。
チーム内での役割の変遷を例に取ると、結成当初からずっと引き受けていたアイス外の雑務は、ある日を境にメンバーで少しずつ分担を図った。今では、金銭担当、クリーニング担当、海外遠征スケジュール担当などのように、それぞれが役割をこなし、各分野でリーダーシップを発揮しているという。「グループの中でひとりだけが仕事を抱えてしまうと、他のメンバーの能力を発揮できる機会を損なってしまうリスクもある」といい、権限委譲の大切さを説いた。
分担を図ったことで効率化が進み、ミーティングや各自のリフレッシュに時間がつくれるようになったとも。
アスリートのセカンドキャリアへの言及も興味深い。「チームスポーツの素晴らしさとグループ形成のノウハウを学んでも、オリンピアンでなければ満足のゆく第二の人生を始めることが難しい。(中略)でも、カーリングを通じて得たスキルは、多岐にわたって活用できるものなんです。カーリング業界の内側でも、指導者、フィジカルトレーナー、メンタルトレーナー、チームスタッフ、栄養士と、いくつも可能性があります。逆にロコ・ソラーレで学んだ経理や旅行関係のノウハウ、語学力を活かして外に出ていくケースがあってもいい」と語る。
本書を読み終えた直後、一般紙でこんなニュースを目にした。日本フェンシング協会の太田雄貴会長が、2021年世界選手権から日本代表選手選考に英語力のテストを導入すると発表したもので、セカンドキャリアも考えた結果という。
アスリートが今までよりも幅広い分野で、セカンドキャリアを築く時代が来そうな気がしてならない。
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もとはし まり、講談社・950円/1986年北見市(旧常呂郡常呂町)生まれ。12歳で本格的にカーリングを始め、チーム青森のメンバーとしてトリノ(2006年)、バンクーバー(2010年)五輪に出場。その後地元でロコ・ソラーレを立ち上げ、2018年の平昌五輪に出場。現在はチームを一般社団法人化し、自身は代表理事としてチームのマネジメントと後進指導を行っている。