【見逃していませんか?この本】かつての人気芸人の晩年を見つめ、心構えに/笹山敬輔『昭和芸人 七人の最期』

2016.09.08 【書評】
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 榎本健一(エノケン)、古川ロッパ、横山エンタツ、石田一松、清水金一、柳家金語楼、トニー谷――この7人の昭和芸人の芸歴を振り返り、どんな最期を迎えたかを、多彩な資料をもとに明らかにしたのが本書。

 古い話と思って見逃すなかれ。今のお笑いに彼らがどういう影響を与えたかも随所に記されていて、お笑い好きなら年代を問わずに目を通したい内容に仕上がっている。

 筆者は、執筆の動機をプロローグでこう語る。少し長くなるが、紹介したい。

 「二○十五年、明石家さんまが還暦を迎えてBIG3はみな六十代以上となり、ダウンタウンも五十歳を過ぎた。私は、今もなお彼らの人気・実力は衰えていないと思っている。だが、いつの日か、私たちは彼らの晩年を目の当たりにしなければならない。それが引退という道なのか、人気の凋落という姿なのかは分からないし、彼ら自身も想像できないだろう。だが、率直に言って、私はその姿を見ることが怖い。その姿が、私にとって、胸を引き裂かれるほど辛いだろうということだけは、容易に予想できる。

 昔のお笑い芸人について書こうと思ったのは、その不安を少しでも和らげるためだ。彼らの晩年の姿を見つめ、どのような最期を迎えたのかを知ることで、心構えをしておきたいのである」。

 筆者は、お笑い芸人は、他の芸能に比べて、穏やかな晩年を過ごすことが難しいと指摘する。その理由は明快で、「観客の笑い声という明らかな指標がある」からだという。

 しかも近年はインターネット社会だ。ネットの住人は辛口のきらいがある。つまらなくなった時の”叩き”は昔と比べ物にならない。「老害」などという言葉もメジャーになり、精神的に受けるダメージは以前よりも強まっているとみることも可能だろう。

 筆者は、エピローグで横山やすしにまつわるあるエピソードを紹介する。7人の芸能人生を踏まえたうえで、このエピソードをどう捉えるか。私は、今後、多くの芸人が晩年を迎える時代に当たって、ある種の「戒め」としたい。(M)

ささやま・けいすけ、文藝春秋・670円/1979年富山県生まれ。演劇研究者。『演技術の日本近代』『幻の近代アイドル史――明治・大正・昭和の大衆芸能盛衰記』など。

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