【主張】矛先が違う最低賃金の一律化
地域別最低賃金の全国一律化を推進する動きが活発化しているが、逆格差が生じる可能性が高く、慎重な判断を求めたい。そもそも、東京一極集中や地方経済低迷の原因を現行の最低賃金制度に求めるのは誤りである。政府によるマクロ経済政策と地方活性化策の行き詰まりが背景にあるのは自明であり、責任転嫁に近い。最低賃金は地方経済の拡大に応じて上昇させていくのが筋で、発想が逆転している。
自民党では今年2月、有志議員が「最低賃金一元化推進議員連盟」を設立。最近の報道では、次期参院選挙に向けた政策集に最低賃金一律化に向けた検討方針を明記するという。「検討方針」の明記は構わないが、実現させるとなると様ざまなハードルを越えなければならない。
最大のハードルは、一律化する水準である。まさか、東京の985円に一律化するというのだろうか。あるいは、全国平均の874円とするのか。目標の1000円に一気に引き上げるという考え方もあろう。しかし、地方経済の実態を度外視すれば、逆格差となるのは明らかである。
都道府県別の1人当たり年間所得をみると、Aランク東京が450万円、ほぼ中位のCランク福岡で270万円、最低のDランク沖縄は210万円となっている。毎月勤労統計調査の定期給与では、東京36万円に対し、沖縄は24万円である。仮に最低賃金を全国平均に一律化すれば、沖縄(762円)においては短期間に112円引き上げなければならず、中小零細企業で雇用削減が横行するだろう。
最低賃金一律化の狙いとして挙げているのは、デフレ脱却、一極集中の是正、地方経済の底上げ、外国人労働者の都市部への流入抑制などである。最低賃金を引き上げて生産性向上を図るなどとする声もある。
いずれも発想自体が逆転している。最低賃金は、地方経済の活性化、生産性向上に即して引き上げていくべきである。無理に一律化すれば、地方経済を破壊しかねない。地方に多くのひずみが生じているのは理解できるが、矛先が間違っている。