【主張】割増率50%適用に備えよ
厚生労働省が、長時間労働のトラック運送業に対する取締りを加速している。8月中旬には、計ったかのように愛知、埼玉、茨城に所在する運送業者をほぼ同時期に司法処分した(本紙9月5日号3面既報)。
過重労働防止対策が監督行政の「最重要課題」となっている面もあるが、国会に提出中の労働基準法改正案成立に向けた「地ならし」とみることができる。今後当分の間は、運送業への取締りが強化されると考えていい。関係業者は、長時間労働是正への努力が経営継続の条件と捉え、目に見える結果を出していく必要がある。
現行労基法では、中小企業における月60時間超の時間外労働に対する50%以上の割増賃金率の適用を猶予しているが、国会に提出済みの同法改正案には、施行3年後に同猶予措置を廃止する規定を盛り込んだ。この改正によって、最も大きな影響を受けるのが運転者を多く雇用する運送業なのだ。
最長で月60時間超の労働者がいる中小事業場の割合は、比較的長時間労働とされる研究開発業務でも15%なのに、自動車運転業務では42%と突出している。100時間超でくくっても10%に及ぶ。
このため、厚労省では、トラック業界と荷主企業および国土交通省などと連携を強めて長時間労働の是正支援策を検討中である。今後はパイロット事業(実証実験)に力を入れて、その成果をフィードバックする意向という。
監督機関による長時間労働の取締り強化は、まさに車の両輪として動いているとみられ、運送業界に改めて警鐘を鳴らす意味があろう。監督実績(平成27年)をみても、対象となった2783事業場のうち1729事業場で労働時間関係の違反が発覚した。司法処分を他山の石として長時間労働是正を図ることが、来年にも成立しようとしている労基法改正への準備となる。
50%以上の割増賃金率が今のまま適用されてしまえば、経営が危うくなると訴える中小業者も少なくなく、本来的にコンプライアンス以前の問題であることを認識すべきだろう。