【見逃していませんか?この本】爆笑派落語家の初エッセー集/瀧川鯉昇『鯉のぼりのご利益』

2016.10.08 【書評】
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 私が落語にどっぷりと首ったけになった理由の1つが、瀧川鯉昇師匠の落語を聴いたからである。飄々とした語り口から「まくら」をいくつも振り、やがて本題へ。気付けば爆笑に次ぐ爆笑で、心が安らぐのだ。安心して身を委ねて笑うことができる師匠で、初めて落語を聴くという人を師匠の出演する会に連れていくことも少なくない。

 そんな鯉昇師匠が初めて上梓した自伝が本書。酒で廃業した最初の師匠である8代目小柳枝、2人目の師匠である柳昇という正反対の師匠にどう導かれてきたかが読みどころだ。

 高校時代の演劇部を筆頭に、人とのつながりを重んじていて、地元での落語会や弟子入りなどあらゆる場面でそれが生きている。読みどころのもう1つはこの点といえるだろう。

 本人に関する数々のエピソードも面白い。たとえばお見合いを”80重ねたことは噺の「まくら」でも語られるところであるが、自伝ともなれば内容は詳しい。

 巻末には弟子へのメッセージが記されている。そのなかの「怒ったら必ず損をします。怒らないで生きてみてください」「嫌なことがあった時は、酒は飲まない。余計に嫌な気持ちになるから飲まない方が良い。お茶で我慢して、なんとか寝てしまうのが良い」は、落語家でなくとも通じるものではないだろうか。大いに反省である。

 長く共に会をし、今年5月に亡くなった柳家喜多八師匠に関することも。『らくだ』を喜多八師匠から教わっていたとは知らなかった。いつか聴いてみたいところだ。

 『千早振る』『蒟蒻問答』『佃祭』『馬のす』『船徳』『武助馬』などなど、師匠の好きなネタを挙げれば枚挙に暇がない。『時そば』や『粗忽の釘』などは、思わず「えっ!」というようなアレンジがなされている。全体に非常に分かりやすい語り口のため、落語を聴いたことがないという方、是非まずはこの師匠を聴いてみてもらいたい。

たきがわ・りしょう、東京かわら版・1200円/1953年静岡県浜松市生まれ。落語家。1973年8代目春風亭小柳枝に入門し「柳若」、77年柳昇門下に移籍、80年二ツ目に昇進し「愛橋」。90年真打ちに昇進し「鯉昇」、05年に「瀧川鯉昇」を襲名。

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