【主張】通算労働時間管理で警鐘
本紙報道によると、三重・伊賀労働基準監督署(久保田洋一署長)は、労働基準法第38条の異なる事業場で働かせた場合の労働時間通算規定を適用し、違法時間外労働として事業者を書類送検した(7月8日号5面)。「おそらく全国初」の送検事案としているが、政府が副業・兼業の拡大方針を強力に打ち出していることから、近い将来、労基行政上の重点監視対象となっていくものと考えられる。
企業としては、今後定められるルールに則った労働時間の通算管理を行って、トラブルを発生させないよう努める必要がある。仮に労働者による自己申告により労働時間を把握するのなら、制度を明確に定め、周知しておかないと企業側の刑事・民事双方の責任が問われかねない。
近年、労働時間の通算制度がクローズアップされ始めている。政府全体の課題として、副業・兼業の普及促進が強力に進められているからだ。労基法コンメンタールによれば、事業場を異にする場合、労働時間に関する規定については、通算して適用するとしている。通算適用するのは、労基法第32条や第40条はもちろんのこと、時間外労働に関する第33条、第36条および年少者についての第60条が該当する。
このため、労働時間を通算した結果、法定時間を超えると36協定の締結、割増賃金支払いが必要となる。割増賃金の支払い義務が課されるのは、原則として時間的に後で労働契約を締結した企業と解釈している。後で労働契約を締結した企業は、その労働者が他の企業で何時間労働しているかを確認したうえで契約すべきということになろう。
伊賀労基署の送検は、問題となった2つの事業場が同一事業主により経営されていたため、責任の所在は明白という特殊性はあるものの、副業・兼業の普及拡大を前にして警鐘を鳴らした事案である。副業・兼業の広がりが本格化し、通算時間外労働で労働者の健康問題などが噴出し始めれば、労基行政上の重要課題として浮上していくのは明らかだ。副業・兼業は労働者の責任で、という時代ではなくなってきた。