非常勤職員であることを理由に不支給とされた退職金の支払いを求めたあっせん事例
労働条件引下げ(退職金)
申請の概要
申請人X(労働者)は、20年前に学校法人に入社して以来、同法人が経営する予備校で非常勤職員として勤務していたが、3月20日、予備校の閉鎖に伴い解雇された。そこで、退職金規程に基づく退職金の支払いを求めたが、被申請人Y(事業主)は、「非常勤講師については退職金規程の適用がない」として支払いに応じないことから、あっせんの申請を行った。
本件は、申請人の申出に基づき都道府県労働局長の助言・指導の手続が行われ、労働局長が再度話し合うように助言した結果、Yの「和解金として100万円を支払う」旨の提示をXが受け入れず、あっせんの申請に及んだという経緯がある。
紛争当事者の主張内容
申請人X(労働者)
非常勤職員だからといって退職金を支給しないことは、退職金規程のどこにも書いていない。20年もの長い間勤務しており当然退職金を支給される権利はあると考えている。
規程に基づき、基本給に勤務年数に見合った支給率を乗じた額(240万円)を退職金として支払ってほしい。
算定根拠となる各種手当等の賃金について差があることは認識しているので、額についてまで常勤職員と同額を要求しようとは考えていない。自分なりに常勤職員より低い額で計算した。
過去に非常勤職員に退職金が支払われた前例は知らない。
被申請人Y(事業主)
退職金規程上退職金が支給されるのは常勤職員のみであり、非常勤職員は支給対象とはならない。過去、非常勤職員に退職金を支払った前例もない。
Xの場合、長年勤務してくれたこともあり、労働局の助言を受け100万円を支払う旨を提示するなど最大限譲歩を行ったものであり、それ以上の額の支払いは困難である。
6年前、Xに対して常勤職員として勤務することを打診したが断られた。今ごろになって常勤職員に準じ退職金の支払いを求めるのは筋が通らない。Xがあくまで当初の要求に固執するのであれば当法人としても裁判も辞さない。
他の非常勤職員へも示しがつかないことから、規程に準じた退職金を支払うつもりはない。和解金と名目を変えた上でなら、Xの要求する額面は無理にせよ支払う用意がある。
あっせんの内容
被申請人Yは、非常勤職員には退職金規程の適用はなく支払った前例もないことから、規程に基づく退職金として申請人Xが主張する額を支払うことには応じられないとする一方で、(退職金としてではなく)和解金としてであれば一定程度の金額の支払いについて応じる意向を示した。そこで、あっせん期日において紛争当事者双方との個別方式の面談を通じ、和解金としての支払いを前提に具体的な支払額の調整を行った。
あっせん委員は、Yと個別に面談し、「もとはと言えば、非常勤であるXの退職金に関する取扱いを不明確にしてきたのが今回の紛争の原因、早期解決に向けては双方が金銭的に妥協するのが適当であると考えるが、事業場側としてはどれくらい支払えるか」と早期解決に向けた金銭的妥協を打診したところ、Yは「120万円ぐらいであれば対応できる」旨を回答した。そこで、あっせん委員より「このようなケースで裁判になると弁護士費用だけでも多額の金銭を要する可能性がある。140万円ぐらいで話を進めたいがどうか」と打診したところ、Yはこれを了解し、当初の主張を軟化させた。
これを受け再度Xに面談し意向を確認したところ、「提示された額の是非につき即答はできない」とのことであった。また、Y側も、支払金額についてはいったん持ち帰り最終的な判断をしたいとのことであった。以上の経緯を踏まえたあっせん案を作成し、後日双方に交付することとした。
結 果
和解金の金額について紛争当事者間の主張の調整を行った結果、被申請人Yが申請人Xに対して140万円を支払う旨を記載したあっせん案を作成・提示したところ、双方がこれを受諾した。
申請人Xが、被申請人Yの退職金規程に定める額の退職金支払いを求めているのに対し、Yは規程上非常勤職員は支払い対象とならない旨を主張したものであり、退職金規程に基づく退職金の支払いおよびこれに代わる具体的な和解金の額が争点となった。
あっせんの場でYは退職金に関する取扱いが不明であった非を認め、早期解決に向けた金銭的妥協を受入れ、Xも金額的に譲歩して合意が成立した。
※この記事は弊社刊「都道府県労働局による 助言・指導 あっせん好事例集―職場のトラブルはどう解決されたのか」(平成24年3月30日発行)から一部抜粋したものです。