難しい自殺の労災認定/友智L&Lコンサルティング 山内 俊吾
昨年の夏、某運送会社勤務の管理職Aさんが自宅で亡くなった。本来の業務に加え多岐にわたる日常業務、昼夜・平休日の区別がない長時間労働、会社および親会社とドライバーと依頼主の板挟み、重要案件のAさんへの丸投げ、自己保身に走るだけで執拗なパワハラを繰り返す会社の上司などに起因して、精神的重圧・苦痛を長期間感じ、慢性的な睡眠不足や心痛に耐え切れなかったことから、Aさんは愛する家族と遺書を残して自死された。
精神障害の労災認定要件は、①認定基準の対象となる精神障害の発病、②その精神障害の発病前おおむね6カ月間に業務による強い心理的負荷(a「特別な出来事」に該当する出来事がある場合、b「特別な出来事」に該当する出来事がない場合に分けられ評価)、③業務以外の心理的負荷や個体側要因による発病ではないこと、を満たす必要があるとされている。
Aさんの場合、③を満たしていることから、①②の要件に該当する必要がある。
①について…Aさんは死亡の3カ月前に月一度の持病検診の際、「不安神経症」との診断を受けていた。ただ、もし診断がなかった場合はどうなるのか。まさか、自殺するなら病院(とりわけメンタル)に受診してから、というのであろうか。
②について…Aさんの時間管理簿は、パソコンのログによるもので、直近8カ月分だけしかなく、「それ以前は抽出できない」というのが会社側の答弁だった。パソコンをシャットダウンして作業していた場合の時間管理は? また、「Aさんは『管理職』であったため、時間外手当は付けていなかった」との会社側の回答(Aさんは時間外・休日、深夜手当なし)。時間管理は行わなくても良いのか。深夜時間の管理はどうなのか。帳簿の保管義務は担保できているのか。加えて、Aさんは「配車係」も担当し、深夜・休日もドライバーや依頼主への対応をさせられており、携帯電話を常時「携帯」させられていた。ただし、携帯電話は「現在ほかの配車係が使用しているため提出できない」との会社側の回答。本当の時間外労働は明確にできるのだろうか。
さらに執拗なパワハラが繰り返されていた。Aさんの同僚・元同僚などにヒアリングしたが、その内容はどのように判断されるのか。
知人の弁護士から、上記の自殺に基づく労災の遺族補償給付など請求の依頼を受け、申請できる要件を満たすのか、改めてその要件の汎用性を再考する契機となった。
友智L&Lコンサルティング 山内 俊吾【岐阜】
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