【主張】デフレ経済が自殺を誘発
政府は、令和元年版の自殺白書を閣議決定した。「経済・生活問題」による自殺者が大きく減少したことで、平成30年の自殺者数は2万840人となり、37年振りの低水準となっている。しかし、自殺者数とデフレ推移がほぼ相関関係にあることを考慮すると、決して楽観はできない。長期にわたり企業の利益や人件費を圧迫するデフレは、最終的に人心をも蝕む。自殺防止対策は様ざまだが、再び厳しいデフレに戻さないことが最大の防止対策となる。政府は、経済政策の舵取りを決して誤らないで欲しい。
自殺者数は、このところ長期にわたり減少傾向が続いている。原因・動機別でみると、とくに大きく減少しているのは「健康問題」と「経済・生活問題」である。「経済・生活問題」は、15年の8897人がピークで、その後横ばい状態が続いた後、30年には3431人まで減少した。全体の自殺者数もこの「経済・生活問題」を反映し、同じような推移で動いている。
「経済・生活問題」が大きな背景にあるということは、経済状況、とくにデフレと相関関係にあるのは明らか。自殺者が急増したのは10年の統計からである。前年まで2万4391人だったが、一気に増加し、初めて3万人台となった。その後14年間にわたり3万人台が続いた。
日本の消費者物価指数は、まさに10年末ごろから前年比マイナスに転じ、下落が2年程度続いた13年4月の月例経済報告においてデフレと判断されている。デフレが長期化すると、生産コスト抑制のために海外へ拠点を移す企業が増えるとともに、雇用や賃金に大きなダメージを与える。売上げが伸びず、付加価値が減り、結果として人件費抑制に向かう。
アベノミクスでは、大幅金融緩和が引き金となってようやく厳しいデフレから脱出し、僅かではあるがプラス成長軌道に乗った。人心を蝕むほどの落ち込みが改善されたのは明らかだろう。ただ、先進国の中では未だ日本が自殺死亡率トップであり改善の余地は大きい。人の命を奪うデフレに再び戻さないことが最も重要である。