【ひのみやぐら】過重労働のない「雰囲気」を
大手広告会社の電通に勤務していた女性新入社員の過重労働による自殺が労災と認定された件、「残業100時間で過労死は情けない」とコメントした大学教授のインターネットニュースサイトなど、社会的に過重労働が注目されている。厚生労働省では、過重労働撲滅対策班、通称「かとく」を東京、大阪の労働局に設置して悪質事案への対処を強化し「仕事と生活の調和のための時間外労働規制に関する検討会」を立ち上げて、長時間労働の是正を後押しする方策を検討していく。今後の取組みに大いに期待したい。
過重労働の原因は労使ともにあるにせよ、職場の雰囲気によるところも少なくないだろう。「周囲の人の仕事が終わっていないと退社しづらい」など、その職場のつくりだす空気に、日本人は飲まれやすいのではなかろうか。
「ワーク・ライフ・バランスに関する個人・企業調査報告書」(平成26年内閣府)では、上司が抱いている残業のイメージを聞いている。それによると、労働時間が長い人ほど「頑張っている人」「責任感が強い人」というポジティブなイメージを持つ傾向が強いという結果がある。職場の空気をつくり出す一番の要因であるのは上司。トップのほうから意識が変わらないと、過重労働防止への道も簡単ではないだろう。高度経済成長時代に「モーレツ社員」という言葉がもてはやされていたが、呪縛はなかなか解き放てないようだ。なお、調査では労働時間が長い人でも「仕事ができる人」「期待される人」とするのは低調で、仕事の成果とは切り離して考えており、回答した上司もこのへんは冷静に判断しているといえる。
毎年11月、厚生労働省は「過労死等防止啓発月間」とし、過重労働解消キャンペーンを実施する。労使の主体的な取組みを促すため、大臣から使用者団体への要請を行うとともに、過労死の発生や若者の使い捨てが疑われる事業場へ集中的な監督を行う。一方、長時間労働削減に積極的に取り組む企業は、好事例として地域に紹介。さらに過労死防止に向けた無料のシンポジウム、セミナーを全国で開催する予定だ。
過重労働防止への機運の高まりを切に願う。