【主張】信頼性に欠ける自己申告
厚生労働省は、さきごろ副業・兼業の労働時間管理のあり方についての検討会報告をまとめ、労働時間通算に当たって労働者の自己申告を前提とするとした(本紙8月5日号1面既報)。しかし、時間外労働の上限規制や割増賃金支払いは、罰則付き強行規定で使用者を強力に拘束しており、曖昧な自己申告による労働時間の把握とは相容れない。今後、労働政策審議会で労働基準法改正に向けた検討を開始するとしているが、自己申告が信頼のおける労働時間の把握方法となり得るためにどのような条件が必要か慎重に議論してもらいたい。
学識経験者らがまとめた同検討会報告によると、副業・兼業の場合の時間外上限規制の適用や割増賃金の支払いにおける労働時間の把握方法を労働者からの自己申告に任せるとしている。割増賃金を例にとると、「労働者の自己申告を前提に通算して支払いやすく、かつ時間外労働の抑制効果をも期待できる方法を設ける」としている。
違反すると使用者が刑事上の責任を問われる時間外上限規制や割増賃金規制の大前提となる労働時間の把握を労働者からの自己申告に求めることが適切といえるか、極めて疑問である。副業・兼業を行う労働者は、そもそも本業の勤務先に申告しないケースも多い。仮に申告したとしても正確な労働時間数を申し出るかは不明といわざるを得ない。本来、自己申告は曖昧、不正確であり、これに基づく労働時間通算は受入れ難い。
同検討会報告では、この問題を克服する手段として、副業・兼業先での労働時間数の「証明書」を求めてはどうかと提案している。この方法にしても、証明書を発行する事業場に新たに罰則を掛けるなどして虚偽申告を防止する必要があるし、虚偽申告した労働者の責任問題もある。
使用者としては、むしろ労働者からの自己申告を奨励しない方が、労基法上の責任を問われにくくなるという状況も生まれる。労働者の副業・兼業を知らなければ、故意による違反は成立しないからだ。自己申告を前提とすると難しいハードルを越えなければならない。