【主張】石綿対策これからが本番
改めてアスベスト(石綿)の脅威がクローズアップされている。本紙報道(9月2日号5面)によると、昭和30年ごろから建材の一部として広く使用されたアスベスト含有建築物の多くが、今後10年程度のうちに解体のピークを迎えるという。ほとんどが中小零細規模である解体業者への安全衛生対策の周知・徹底およびアスベスト対策を念頭に置いた解体予算の計上を中心とした防止策を強力に展開していくべきである。
アスベストの製造、譲渡、使用は平成18年9月に全面禁止された。労働現場でアスベストに長期間無防備でさらされると、肺がんや悪性中皮腫などを発症する可能性が高まる。初めは無症状でも20~40年後に咳や血痰が出て肺がんなどと診断される。
高度経済成長期に当たる昭和30年ごろから、ビル建設などにおいて、保温断熱を目的としたアスベスト吹付けが広く行われたほか、スレート材、ブレーキライニング、ブレーキパッド、防音材などにも使用された。
老朽化した建物の多くが、令和12年ごろをピークに解体される見込みで、アスベスト対策の本番はこれからといえるだろう。昨年度からスタートした第13次労働災害防止計画(期間5年)では、「解体等作業における石綿ばく露防止」に向けた対策が新たな課題として浮上し、準備段階に入っている。
問題は、解体業者の大部分が中小零細で、法令などの周知が行き届いていないことである。このほど、宮崎や島根の労働基準監督署が相次いで書類送検した解体業者も個人企業レベルの零細規模で、アスベスト使用の事前調査を行っていなかったほか、複数労働者に呼吸用保護具を着用させていなかった。法令に基づく基本的な健康障害防止対策の違反が続いてしまえば、数十年後にまた多くの犠牲者が発生してしまう。
解体工事がピークを迎える前に、業者に対する法令研修を広く実施するとともに、工事発注者にアスベスト対策を見込んだ請負契約を結ぶよう要請するなど、社会的認知を高める必要がある。過ちは再び繰り返したくない。